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憑かれ男子 06

 鏡の中の自分に語りかけてるその様子は誰かに見られたら、アウトレベルのものかも知れない。だけどそんな俺を見ているのは、少しばかり個性的な三人の幽霊だけだ。  今の時間ならまだ部屋にいるだろうと言うことで、見た目は俺一人の俺と玲先輩は拓海先輩が住むところへやって来た。 (ほえー、立派なマンションに住んでるんっすねえ)  そんな間抜けな俺の声が聞こえているのは俺と恐らくは近くにいる幽霊ぐらいで、幸いにも今回は周りの注目を浴びずに済んだ。  玲先輩は拓海先輩の隣に住んでいたらしく、先輩は十桁の暗証番号を入力してエントランスに続くドアを開ける。ここを突破するとそれぞれの部屋に行けるらしく、俺たちは拓海先輩の部屋へと急いだ。  時間はそろそろ夕方と呼ばれる時間帯で、マンションの壁に設置されている大きな電光掲示板は午後5時ちょうどを表示している。そろそろ日が傾き始める頃で、ここに来て少し肌寒くなって来た。 「ここが俺が住んでた部屋。まだ空いてるのかな」  その向こう側。三階の一番奥が拓海先輩が住む305号室らしく、玲先輩は迷いなく玄関まで真っ直ぐ歩いて行く。 「で、ここが拓海の部屋」  ここに来て初めて先輩に戸惑いの色が見て取れた。インターホンを押す指が少しだけ震えている。先輩は自分の死後、初めて拓海先輩に会うんだそうだ。  死んでからも大学に留まっていた先輩だったが、拓海先輩には見えないだろうけど、拓海先輩の前に姿を現す勇気が出なかったらしい。  俺の姿の先輩は、それでも震える指でインターホンを押した。当然モニターに映っているのは玲先輩じゃなくて俺で、対応してくれなかったら……と少し不安になる。 『……誰?』  何分と待たずにインターホン越しに声が聞こえてホッとした。けだるいような、眠いような低い声。 「俺だけど」 『俺……?』 「あ、そか。玲だけど」 『……は?』 「信じられないだろうけど玲だよ。拓海」  先輩は困った声で、インターホンの前で儚げに笑って見せる。その様子を固唾を飲んで見守っていると程なくしてドアが開いて、拓海先輩らしき人が顔を見せた。

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