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憑かれ男子 05

 事故当日。とある悩みを抱えていた先輩は、初めて大学のカウンセリングルームを訪ねたんだそうだ。その悩みと言うのが自分の性癖についてで、悩みに悩んでのことだった。 (……同性愛、ですか?) 「そう。あの日の何日か前にね。不意に気付いたんだ。俺は男が好きだって……、と言うか、幼なじみで親友の拓海が好きだってね」  そう自覚したもののその事実を受け止めきれず、誰かに相談しようと思ったそうだ。 「ドアの前で入ろうとしたけど入る勇気が出なくてね。何度も部屋の前を行ったり来たりして……」  そこへ偶然にも拓海先輩が現れて、驚いた清水先輩は拓海先輩の目の前で階段を踏み外し、階下の踊り場に強く身体と頭を打ち付けてしまったらしい。 「その時、拓海が俺の名前を呼びながら手を伸ばしてくれたけど、あとちょっとのとこで届かなくてさ。言ってみれば拓海の目の前で階段から転落したから、拓海が自分のせいだと思ってるみたいで……」  確かにその状況だと、自分が掛けた声に驚いて階段から転落したと思うだろう。しかも咄嗟に伸ばした手も届かなくて、親友を目の前で死なせている。 「拓海のせいじゃないって一言言いたくて。拓海のことを怨んでもないし……で、さ。出来れば親友としてじゃなく、一人の男として、恋愛の意味で好きだったことを伝えたくて」 (……そうでしたか。で、霊感が強い俺を見つけて、俺に接近して来たんですね)  今の先輩は喋ることが出来るのに、俺の問い掛けに小さく頷いた。先輩の親友の拓海先輩も後悔しているみたいだけど、先輩も何も言えず仕舞いだったことを後悔している。 (ねえ、清水先輩) 「玲でいいよ」 (じゃあ、玲先輩) 「ん?」 (先輩は拓海先輩に伝えたいことがあって、俺のとこに来たんですね) 「うん。まあ、そう言うことになるかな」 (じゃあさ。今からそれ、伝えに行きましょうよ) 「えっ、今から?」 (善は急げって言うし) 「でも……」 (俺に憑依した今なら拓海先輩と話せるし) 「あ……」 (まあ、器がちょっとアレだけど、話せば中身は先輩だって分かって貰えますって)  最初は戸惑いの色を見せていた先輩だったが、 「……ありがとう。そうだね。ちゃんと成仏しなきゃいけないよね」  最後には、そう言って笑ってくれた。

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