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憑かれ男子 04
「ただいまー。さあ、入って入って」
傍目には誰もいない部屋に向かって、俺はそう声をかけた。実際には三人の幽霊がそこにいて、それぞれがお気に入りの場所で寛いでいたり。
元コギャルの花ちゃんは俺の万年床に寝転がってお化粧してるし、おっさんはテレビに向かって何やらぶつぶつ言っている。浪人生だった小池さんは漫画の単行本を手に、その漫画を読み耽 っていた。
『おっ。お客さんかい?』
久しぶりに俺が連れ帰ったからか、おっさんが楽しそうにそう言った。
思えば、うちにいる三人は普通に俺と言葉を交わせるのに、先輩だけが俺とは喋ることが出来ない。死後何十年も経ってる三人とは違い、多分、先輩は死んで間もないからだろう。
因みにコギャルの花ちゃんはルーズソックスにやまんば風のメイクをしていて、小池さんに至っては、ぼさぼさのロン毛頭で生前はラッパズボンと呼ばれていた裾が大きく広がったベルボトムのデニムを穿 いている。
ワンルームと言えば聞こえがいいが、六畳一間の部屋に備え付けのシンクとガスコンロが一つ。トイレも一応備え付けられてはいるが、風呂は週三で近くの銭湯に通っている。
部屋に上がり、唯一のテーブルである拾ったちゃぶ台の前に座り、俺はおもむろに鏡を取り出した。
「ねえ、先輩。俺に憑依することは出来ますか?」
鏡越しにそう聞くと、こくんと先輩が小さく頷いた次の瞬間、俺の身体が乗っ取られるいつもの感覚がした。
* * * * * * *
(……清水先輩、聞こえますか?)
「うん。聞こえてるよ」
(ごめんなさい。こんなに平凡な器の中に入って貰っちゃって)
「顔が自分のじゃないからか、なんか不思議な感じがする」
実は幽霊が見えるだけじゃなく、憑かれ体質でもあるからこんな芸当が出来るんだよな。俺は手にした鏡の中を覗いて、俺に憑依した先輩と鏡越しに会話した。
何度も泣きそうになりながら、先輩は事のあらましを聞かせてくれた。先輩が階段から転落したのは先輩がカウンセリングルームのドアノブに手を掛けた瞬間のことで、その現場を親友の拓海 先輩に目撃され、動揺した先輩は階段を踏み外してしまったらしい。
(カウンセリングって……)
「ああ、うん。それはまあ、性癖のことでね。実は俺、拓海にも隠してたんだけど、どうやら同性愛者みたいでさ」
(先輩。話しづらかったら別に……)
「大丈夫。聞いて?」
そう苦しげに笑って、先輩は全てを打ち明けてくれた。
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