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第1章 シルヴァリオン 【10】タカハシサンがいっぱい
週明け、学園総会が行われ、壇上でオーディンが演説をしてる。
かっこよさに周りの生徒がウットリと見ている。
着替えも一人でできないとか、そのくせ世話焼きだとか、好き嫌いが多いとか、ボクしか知らないオーディンを思い出し一人ほくそ笑む。
まだたったの1週間だけど、お互い随分打ち解け、わかりあえたと思う。
今週から放課後はオーディンが国のお仕事がある時は、ボクはまっすぐ帰宮。
生徒会のお仕事がある時は、生徒会室のオーディンの机の隣に用意されたボク専用の机で過ごすように言われた。
「宿題したり、本を読んだりするといいよ」
生徒会室では、みなさんが忙しそうにお仕事してるのに、邪魔じゃないんだろうか。
(ここにいるみんなには、ボクが見えていないのかな?)と不安になるくらい無反応だけど、
『シルヴィはどうする?シルヴィも飲む?シルヴィは…シルヴィも…』オーディンが話しかけてくれるとボクは透明人間じゃなく、みんなの目に映るみたいだ。
終わったら一緒に帰り、一緒にご飯、一緒にお風呂、眠るのは別々の部屋だけど、まるで夫婦みたいだ。
そんなことを考えてたら顔が真っ赤になって、オーディンに不思議がられた。
次の日の放課後のリムジンの中で、ボクとオーディンは変装するために着替えていた。
オーディンはロングTシャツとジーンズに黒いカツラ、銀縁伊達メガネ。
ボクは空色の半袖シャツに白いパンツ、茶色のくせっ毛のカツラに黒縁伊達メガネ。
黒服さんたちもいつもの黒服じゃなく私服を着ていた。
着替えた後、リムジンから普通の乗用車に乗り換え、車を走らせるとしばらくして街並が変化する。
建物が減り郊外の空気を感じる頃、車が停まった。
うながされ降りると、農家のおじさん?に案内されて行った先には、白・茶・黒のたくさんの【タカハシサン】がいた。
(あのデブアルパカのぬいぐるみは、デフォルメじゃなく本当にこんなにデブなんだ)
触っていいと言われ抱きついてみる。
もふん
ジト目もぬいぐるみそのままで、たくさんの【タカハシサン】に囲まれ埋もれそうになっていると、オーディンが腕を取り抱き上げて助けてくれた。
ヴェーヴェーと不満そうな【タカハシサン】たちが、ヤバイくらいに可愛い。
おじさんの説明によると【タカハシサン】たちからは上等な毛が取れて、暖かいコートやマフラーが作れるんだそうだ。
温暖なシアーズでは必要ないが、近隣諸国では人気で重宝されているという。
その後、オーディンの宮殿まで戻った車は、門をくぐらず道端で停まった。
門兵さんの交代式の時間じゃないので、観光客もまばらで閑散としている。
真っ赤な衣装の門兵さんを見ていると、突如ラッパが鳴り響き、キビキビとした動きで交代式が始まった。
オーディンを見上げるとニッコリ笑って「私もちゃんと見るのは初めてなんだ」と言った。
(ボクが見たいと言ったから、時間でもないのにやってくれてるんだ)
銃剣を手にした門兵さんが行進しながらキビキビと交差する。
新しい門兵さんが配置に着くと、ラッパの音もやみ、交代式は終わった。
その後、飲んでみたかったタピオカミルクティーもどきを買ってもらって車に戻る。
飲んでみたら、中にあった黒い丸いのはタピオカじゃなく、イクラみたいに薄い外皮に包まれたもので、舌で潰すと甘いシロップが口の中に広がり、とても美味しかった。
この後は宮殿に戻るのかと思ってたのに、車はまた走り出す。
1時間ほどかけて山の中腹のレストランに到着する、山小屋風のここは一段高くなった小上がりにクッションを敷き詰め、もたれるように座り、床に直に置かれたお皿から料理を手づかみで食べるスタイルだ。
(どこの国の料理かわからないけど、手づかみで食べたことなんてなかったからスゴイ楽しい!)
味もスパイシーでスリランカ料理ってこんな感じだっけ?と無い情報を絞り出す。
(なんかデートみたいだ)
「すっごい楽しい」と言うと、オーディンが嬉しそうに「よかった」という。
車に戻るとリムジンで、もう変装を取っていいと言われた。
(デートはおしまいか)
変装のオーディンはいつもと違う人みたいで、それでもカッコよくて変装の終わりが少し残念だ。
すっかり暗くなった外を見ると、リムジンは山を下らず登っていく。
着いた先は、古いお城のような建物で、山の上の砦のようだった。
尖塔の最上階のバルコニーに出ると、眼下にシアーズ都心部の夜景が煌めいていた。
香港の100万ドルの夜景がこんなだかは知らないが、美しい光景にウットリとする。
肩にオーディンの手が置かれ、なにか?と見上げると
突然唇に柔らかいものが触れてきた
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