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第5章 エーリス国へ 【4】不信感

ギデオンの話はにわかに信じがたいものだった。 『シアーズに留学中の兄に聞いたんだけど、絶対言うなって言われてたんだけどさぁ…』 シィが入学すると同時に【エーリス王子に話しかけること、見ることを禁ずる】との厳命が学園中に下ったのだと。 話しかけた者が退学させられただの殺されただのはただの噂だけど、実際何人かが消えたらしいって。 『こうして一緒にエーリスに来るくらいだし、意地悪されてんじゃないんなら良かったよ』 ベッドに倒れ込んだボクは礼服を脱ぐのも忘れ、どうやって退室してきたのかも覚えてないくらい呆然としていた。 【エーリス王子に話しかけること、見ることを禁ずる】ってなんだよ…誰がそんな命令を? (誰がって…)フッと自嘲する。考えたくないけどそれってやっぱり――― 現世に帰ることを諦め、エーリスの両親に泣かれてまで守ろうとしていたものが崩れていく音がする。 信じて疑ったこともなかったものに裏切られたショックで動けなくなってしまったボクは、泣きながらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。 小さな物音で目が覚める。 どれくらい時間がたってたんだろう、窓の外はすでに真っ暗になっていた。 寝室の扉がノックもなしに開かれる。 そこには怒りを滲ませたオーディンの姿があった。 (何怒ってるんだよ、怒るのはこっちなのに)オーディンの表情にイラッとした。 「勝手に入ってこないでよ」枕を抱きしめ、寝転んだままそっぽ向く。 (ボクに友達が一人も出来なかったのってオーディンのせいだったんだ、なんのために?)って聞きたいけど内緒って言われたから聞けない。 ギシッとベッドがきしみ、オーディンが乗り上げてきたのがわかる。 ボクの肩に手をかけるのを感じ、反射的にその手を振り払ってしまった。 「さわらないで…今はさわられたくない」 布団に潜り込もうとするボクの腕を取り引きずり出されると、暗い灰青色をした瞳とぶつかる。 「あいつと何を話してた」 「いた…ぃ、なんのこと?」 ギリギリと手首をねじりあげられる。またはじまった、いつもの嫉妬だ。 「シルヴィに触れていたあの男は何だ!」 「ギィのこと?ギィは…ただの幼馴染だよ!」 やっぱり【エーリス王子に話しかけること、見ることを禁ずる】はオーディンの仕業だったんだと確信すると、感情が高ぶり涙が出てくる。 「嫉妬?ボクのこと信じてないの?話す人全員どこかにやるの?ギィも?…ここはエーリスだよ、そんなことさせないから!」 一気にまくし立てた。 「―――っ!!」 ベッドに押しつけられた瞬間、オーディンの首元からフワッと花の蜜を凝縮したような香りがした。 この香りは……! 「いやっ!!!」 死にものぐるいで暴れた。掴まれていない方の手でオーディンを殴り、足で蹴り大声で叫ぶ。 「たすけてっ!!!だれか、黒服さんっ…いやだっ、だれかぁああーっ!!!」 あまりの叫び声に、黒服さんとエーリスの王室警備兵がもみ合う音と声が隣の部屋から聞こえる。 この香りの元をボクは知っていた。 ベッドの上で精一杯の抵抗をしながら叫び続ける。 「ゃあーああっ!たすっ…、て!だれかっ」 この香りいつもエンディミオン叔父がつけている、エーリスで希少な香水の香りだった。 こんなに強く移り香が付くって…想像したくもないけどそうとしか思えない。 (生涯ボクだけだって言ったくせに…) ドアが開き入ってきた黒服さんに「今は少し時間をお置きください」と説得されるオーディン。 王室警備兵に助けられようやく離されたボクの手首には、真っ赤にオーディンの手形がついていた。 それを見られないように長い袖で隠す。不穏な空気で睨み合う兵と黒服さん。 「みんな…出てって、ボクを一人にして」 もうオーディンを信じられなかった。

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