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第5章 エーリス国へ 【5】驚愕 オーディンside

(またやってしまった…) ギデオンとやらに嫉妬してしまって、またシルヴィを怒らせてしまった。 いつにないほどの怒りと抵抗加減に、エーリス王室警護人と黒服が間に入り引き剥がされてしまった。 ギデオンとやらと将来誓い合った仲だったとしても、今シルヴィは国を捨てる覚悟で私を選んでくれたのだ。嫉妬する必要などないのに、過去に何があったとして…いや、それは許せないが。 夕食の宴にもシルヴィは姿を表さなかった。様子を見に行くか?しかしそれもエーリスの警護兵に邪魔されそうだ。 逡巡していると黒服からエンディミオンの来訪を告げられた。 「先程はどうも」私服に着替えたエンディミオンはくつろいだ様子で椅子に掛けた。 胸元が開いたシルファ製の白銀のシャツに黒のユッタリとした長下衣は艶かしく、組んだ足元が少しはだけられて白いふくらはぎが覗いていた。 部屋の隅に控える黒服をチラリと見ると「下がれ」と命令するエンディミオン。 「下がる必要はない」黒服に言いながら目線はエンディミオンからはずさない。夕刻のような真似はさせないと言外に匂わせる。 「そうですか…これからする話しを聞かれるとまずいと思うんですけどねぇ」 「かまわない、ここにいる黒服は側近中の側近だ聞かれて困ることなど無い」 「殿下はそうでも…シルヴァリオンの名誉?的なことではどうなんですかねぇ。聞かせてもいいのでしたら私はかまいませんが」 テーブルに両手を付き、組んだ腕に顔を乗せイタズラめいた顔で笑うエンディミオン。 何を企んでいる……?シルヴィの名誉? そう言われると黒服を下がらせるしか無い。 二人っきりになった室内。 「聞き分けがよろしくて助かります」 あくまでも上から目線で子供扱いのような言い草に怒りがこみ上げるが、それこそがこいつの手かもしれないと冷静になろうと務める。 「シルヴィの名誉とはどういうことだ?」 「あぁ…それはまぁ またあとで、それよりも殿下の願いをお聞きしてもいいですよ?」 椅子から立ち上がるエンディミオンが私の前に立つ。白銀の衣に包まれた腕が上から降りてきて私を包む。 「還俗して皇位継承権を復権し子供を成し王位を継ぎ、シルヴァリオンを王子のまま嫁がせることに協力しましょう」 エンディミオンの手が私のシャツのボタンをはずしていく。 「たくさん子を作り、私そっくりの女の子が出来たらそれも差し上げると約束しましょう」 シャツの中に手を忍ばせ、羽毛のようなタッチで撫で回すエンディミオンに鋭い口調で諭す。 「何を勘違いしているのだ、私はお前の容貌などに興味はない。お前似だからシルヴィを愛したのではないぞ」 ピタリとエンディミオンの手が止まる。 「ちっとも似てないしな。私のシルヴィは真っ更で汚れを知らぬ、お前とは似ても似つかないほどに純粋で清らかだ。お前に似てる女?そんなものはいらない。何度も言うが私は生涯シルヴィしかいいらぬのだ」 しばらくの沈黙の後エンディミオンは元の席に戻った。 「なんとまぁ、よくそこまで惚れ込めるものですねぇ感心しますよ」 「お前と寝なければこの件が成せないというならばそれでもいい。その時はエーリスの王政を廃止させるまでだ」 こちらが優位なのだと威嚇するが、エンディミオンは表情を変えず薄ら笑っている。 「皇帝とは違って貞操観念が強くていらっしゃるようですね」 皇帝とは父のことだ。こいつ何が言いたいのだ? 「妹を皇帝に嫁がせた時、私も随行してシアーズ皇国に行ったのをご存じない?」 「あの頃、私は他国に留学したいたからな」 「そう…残念。あの時お会いしていたらまた違った現在になってたやもしれませんね」 豊かなプラチナブロンドを指でも手あそびながら流し目をするエンディミオンが毒婦のように見えた。 お前にあの頃会ってたらシルヴィではなくお前を愛していたとでも?なんという侮辱。 「話は決裂だ。エーリスの王政は廃止する」怒り任せに立ち上がり告げる。 「それは得策ではないでしょう。皇帝に進言して阻みますよ?あの人は私の言いなりですからね…フフッ」 こいつと皇帝には肉体関係があるのだと察した。だからといって私を皇帝が止められるとでも思っているのだろうか。 「好きにするがいい。私は父を廃してでもエーリス王子を妃として手にし、その後エーリス王政は廃止しシアーズの一地方とする。王族はそこの領主にでもしてやるから安心して暮らせ」 皇帝を廃するなどとの危険思想を口にするのはバカげているとわかっているが、私は本気だった。既に内政は私なしでは動かないほど掌握しているし、軍も私の手の内だ。 睨み合うこと数刻… エンディミオンがほぅと息を吐き表情を緩め、儚げに微笑む様はシルヴィを思わせた。 「そこまであの子を愛してくれてるとは…負けましたよ。私の最高傑作であるシルヴァリオンをあなたに差し上げましょう」 最高傑作…?何を言っている…まさか 「兄に頼まれましてね…兄王には子種がないのですよ。長く子供ができなかった年の離れた兄が、私が精通するやいなや王妃を孕ませてくれと頼んできたんですよ。  私は女を抱くのは気がすすまなかったんですけどね。ああ、それ以前に兄と愛し合ってましたしね。その愛する兄にお前の子が欲しいと頼まれれば…断れませんよね。薬で眠らせた王妃を兄王の隣で抱きましたよ。不幸中の幸いとでも言いましょうか、一発で孕んでくれたのは助かりましたよ」 こいつがシルヴィの父だと―――?! 「私も女を抱けるのだとあの時わかりましたよ。その後は男も女も抱きたいだけ抱いてきました。兄王も皇帝だろうとも…私を拒絶できる者はいなかった」 悠然とした笑みで己の顔を撫で擦る。美しい顔、優美な仕草、神の造り給うた美の結晶。 「ぜひともあなたも抱いてみたかったですよ…残念ですほんとうに」

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