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第6章 祝福されて 【1】婚約
その後、シアーズに戻った二人は婚約した。
同性であることはこの国では大した問題ではなかったようで、シアーズ国民はアウレリア教の聖地であり神の国と称されるエーリスの王子である美しいシルヴァリオンに歓喜し祝福した。予想外だったのはエーリス国民の反応だ。ここ数年目覚ましい発展を見せ近代化が一気に進んだ国民は、考え方もシアーズ化したのか同性愛にも寛容になってきていたようで、こちらも比較的好意的に祝福された。
婚約の宴にはシアーズ属国から王族が祝いに訪れ、エーリスからは還俗し王位継承権1位となったエンディミオン叔父が来てくれた。アウレリア教の神官長となり生涯神に仕えると思っていた叔父が還俗し王位を継いだことにシルヴァリオンは驚き、それら全てがオーディンの仕組んだことと知って更に驚いた。叔父の元に後宮入りした数人の女人が既に懐妊中だそうだ。仕事が早い。
全てうまく回っていて夢じゃないかと思うほどだが、ボクの嫁入り(?)に失意の父王は来年退位して叔父に王位を譲るそうだ。申し訳ない。
結婚式は半年後、ボクの学園高等部卒業を待ってからということになった。
そう、ボクは帰国後 学園に複学していた。
エーリスでは学校に通えてなかったこと、シアーズで友達を作ることを楽しみにしてたことを知ったオーディンが提案してくれて復帰が叶った。
オーディンの婚約者ってこともあり、かなりチヤホヤしてもらって友達候補も何人も名乗りを上げてくれて選べないほどだった。
前に同じクラスだった人もチラホラいて、オーディンの誕プレを買いに行った時に会った人もいた。
『今度こそ友達になって?』と言うと嬉しそうに頷いてくれた。
彼はシアーズの有力貴族の長男で、学園卒業後は王立近衛兵に入るんだって。卒業しても近くにいれると知り喜んだ。さりげなく例の【エーリス王子に話しかけること、見ることを禁ずる】のことを聞いてみたけど「知らないなぁ」だって。もうどっちでもいいんだけどね。
ボクは週に1度はあの神のいる山の神殿に通っていた。
神にオーディンの妃になることを改めて報告した。神棚の下にもう1つ棚を作ってもらって、そこに自分で作った木彫りの人形を並べている。これは匠さんと呼んでいる東屋や棚を作ってくれた黒服さんに教えてもらいながら、不器用なボクが小刀で一生懸命掘った木彫人形だ。大きいのが父さん、小さいのが母さん、中くらいのが兄さんだ。
オーディンに「これは何だ?」と問われ「ボクの大事な家族」と答えた。
きっとエーリスの両親とボクのつもりだと勘違いしてくれたんだろう。人には見えにくいヘタクソな人形なのに、1番小さいのを指差し「可愛いな」って言ってくれた。
ボクはここに訪れる度に折り鶴を1つ神に奉納している。中にはボクから神へのお願いやお礼を書いてあるんだけど、それは誰にも秘密だ。
今日の折り鶴には(現世の家族の悲しみが早く癒えますように)と書いた。
自分が幸せすぎて、エーリスの父母や現世の家族を悲しませていることに心が痛む罪滅ぼしのようなものだ。
(両親が長生きしますように、兄が島で嫁をとり両親の面倒をみてくれてますように)
(オーディンとおじぃちゃんになるまで一緒にいさせてください)
(エーリス民がもっと豊かに幸せに暮らせますようお願いします)
お願いばかりしてるな、感謝もしてるよ神様、ありがとね。
平穏な毎日、友達と学園の帰りに買い食いもした。今のマイブームはアメリカンドックだ。
これもあの店主に進言してボクが作ってもらったもので、中身は現世で流行ってるのを真似たビヨ~ンと伸びるチーズ入りが人気らしいが、ボクはオーソドックスなウインナーのが大好きでケチャップまみれにしながら食べた。
そしてボクの学園卒業と同時に国をあげての盛大な結婚式がおこなわれた。
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