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第1話

ある秋の日の事だ。 "わんわんっ" 今にもそう聞こえてきそうで、俺は机に項垂れた。 目の前にいる男─柴田海─は…一応、大事な事なのでもう一度言うが、一応俺の恋人である。 「ねぇねぇ、はるくんっ!」 はぁ、ブンブン振れる尻尾まで見えてきた…。 『ワンっ』 …は? 聞こえた声に思わずノートから顔を上げて海を見る。 「ぼ、僕じゃないよ?」 部屋の一角に目をやると、先程まで眠っていたはずのタロウがリードを咥えて散歩の催促をしていた。 「もうそんな時間か…」 ペンを置いて、上着を着込む。 外はもう肌寒い。 「もう…はるくんタロウの事になると素早く行動するのに……」 海が小さく呟いた。 さっきまで振れていた尻尾は、シュンと下がってしまったようだ。 「お前も行くぞ。」 タロウにリードを着け、海の手を引いて玄関に向かうと簡単に尻尾は元に戻ったようだ。

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