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次の日の朝早く、海は布団を抜け出してソファーに沈みこむ。
幸せな春樹との時間も、今日で最後になる。
タロウの為にも、春樹は家に帰るべきなのだ。
「またお別れだね、はるくん。」
そっと声に出してみた別れの言葉。
すると小さな物音がして、振り返ると春樹が目を覚ましたところだった。
「おはよう、よく眠れた?」
目元を拭って、春樹のもとに歩み寄る。
両手を伸ばすと、優しく抱きしめてくれた。
「海は早起きだな」
そう言って髪を撫でてくれる手の感触を、二度と忘れないように記憶に刻み込もうと思った。
「ねぇはるくん、今日俺のこと抱いてくれる?」
意を決して、海は申し出た。
「……あぁ、いいよ。」
目を見開いた春樹は言葉に詰まるが、海の意思を汲み取り了承した。
「ありがとう、はるくん」
止まったはずの海の涙は、いつの間にかまた溢れ出していた。
「海、海…本当はこのままどこにも行ってほしくなんかないよ。」
海を抱きしめる手に力が入る。
このまま腕の中に閉じ込めて、許されるなら一生離さないでいたいと思った。
「俺だって、はるくんをずっとこのまま…ここに縛りつけておきたいと思ってるよ。」
溢れ出る涙もそのままに顔を上げた海が、春樹の首筋に唇を寄せる。
犬のようにぺロペロ舐めたり、甘噛みしたり好きなように弄ぶ。
そして最後にジュッと吸い付き所有印を残した。
どちらからともなく唇を重ね合わせてから、さっきまで春樹がいたベッドに2人で戻る。
「海、また逢う日まで。」
何度もキスをして、互いを求め合う。
「はるくんは、ヨボヨボのお爺さんになってから来てね。」
眠りに落ちる寸前で海は言った。
その顔はとても穏やかで、記憶から消える事はないだろう。
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目が覚めると、いつもと変わらない自室の天井と足元に感じる温もり。
あぁ夢だったのかと、起き出して洗面所へと向かった。
春樹は鏡に映るくっきりと首筋に残るキスマークに、堪えられず涙が頬を伝った。
神様のいたずらか、気まぐれか。
海と過ごした時間は夢ではなかったのだ。
おしまい
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