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07
「齋藤君、腹が減っただろう。今用意するから待っててくれ」
トレーに乗せられた一人前のランチ。それを一旦ベッド横のサイドテーブルに置いた芳川会長は、そのままベッドへと乗り上げる。
そして、伸びてきた手に背中をそっと抱き起こされた。
「っ、ぅ、ふ……」
拘束された状態では会長にされるがままになるしかない。
その代わり、口の開閉を邪魔していた猿轡を外される。
「っ、けほ……」
「喉が乾いただろう。ほら水だ。口を開けろ」
そう、サイドボードの上に置かれていたボトルを手に取る会長。キャップを開け、会長は口をこちらに向けてくる。
何が入ってるか分からない状況だ。喉は確かに乾いていたが、素直に口にする気にはなれなかった。
「いい……です」
「いいから飲め、いきなり固形物を口にしては胃が刺激を受けるだろう」
会長の語気が僅かに強くなる。
肩を掴まれ、そのまま唇に押し付けられるペットボトルの口。それから逃れるように首を動かせば、芳川会長の目の色が変わった。
「……君は」
そう、何かを言い掛けた時。会長は俺からペットボトルを離す。
ようやく諦めてくれたのだろうかと内心ほっと安堵したときだった。何を思ったのかいきなり芳川会長はそのペットボトルに口をつけ、そのまま中身を飲み始める。
――もしかして、俺に怒って全部飲むつもりなのだろうか。
突然の会長の行動にぎょっとしたが、すぐにその真意はわかることになる。
「ぇ、あ……っ」
肩を掴まれ、顔を無理やり上げさせられる。
視界が陰る。厭な予感がし、咄嗟に顔を逸らそうとするが会長の力に敵わなかった。
俺の抵抗も虚しく、唇を塞がれる。キスなんてものではない、無理矢理指でこじ開けられた咥内に水を流し込まれるのだ。
「っ、ふ、ぅ……ッ!」
「は……逃げるな」
「待ってくださ、……っ、ん、ぅ……っ!」
舌伝いに口の中に流し込まれるそのほのかに温くなった水は、喉を通って腹の奥まで落ちていく。
必死に口を閉じようとすれば唇の端から水が溢れ、そのまま顎先を伝って首筋まで襟を濡らした。
空になった咥内、舌同士がぶつかり背筋が震えた。怖かった。息苦しくて、それなのに目が逸らせない。
そして会長が俺から唇を離した。
――ようやく終わったのか。
そう息をついた矢先だった、会長が二口目の水を飲むのを見て目の前が真っ暗になる。
「や、やめて下さ……ッ!」
俺の制止は届かず、二度目の口移しが始まる。
先程よりも冷たい液体が咥内を満たしてきて、必死に唇を閉じてその侵入を拒もうとすれば舌で強引に抉じ開けられ、そこからまた流し込まれる。
「っ、ぅ、んん……ッ」
三度目、四度目と口移しの回数を重ねるうちに、拒んだところで無理やり抉じ開けられるというのがわかった。抵抗する気にもなれなかった。
首の付け根を掴まれたまま、口移しされる水をただ受け入れることが精一杯だった。
こんなことなら、どちらにせよ芳川会長の口から飲まされるくらいならいっそのこと。
「っ、……自分で、飲みます」
――七回目。
ようやく唇が離れたとき。既に喉は潤っていたが、恐らく会長はペットボトルが空になるまで飲ませる気なのだろう。
八度目の口移しをされる前に、そう告げれば少しだけ驚いた顔をした。
「そうか」
それだけを言えば、自分の口元を拭った会長はそのまま俺の唇にペットボトルの尖端を押し当ててくる。それを唇で挟むように咥えれば、ゆっくりと傾けられるペットボトルから水が流れ込んできた。
――最初から、素直に言う事を聞いておけばよかった。
……そう思わずにはいられない。
どくどくと流れ込んでくる冷水に、徐々に腹の中が満たされていくのがわかった。
流石にこれ以上は飲み過ぎになると思い、もういいですと会長を見上げるが会長は傾けたペットボトルを固定したまま手を動かさない。
俺の意思に反してどんどん流れ込んでくるその水を流し込むのに追いつかなくて、咄嗟にペットボトルの口を舌で抑える。そんなことをすればどうなるのか、少し考えたらわかることだ。
「ッ! ゲボッ! ゲボッ!」
口の中に溜まった水に耐えきれず、俺はそのまま噎せ水を吐き出した。
口から外れたペットボトルの中身が俺の制服、そしてベッドシーツまでもぐっしょりと濡らす。
「……君は、本当にどうしようもないな」
咽返る俺を見下ろしたまま会長がそう小さく呟いたときだった。
空になったボトルをベッド側のゴミ箱へと放り込んだ芳川会長は、そのまま「おい、灘」と仮眠室の奥にひっそりと立っていた灘に声をかけた。
「はい、なんでしょうか」
「もう戻っていいぞ」
返ってくる返答に、今の今までずっと灘がそこで見ていたのかということに気付き、じわじわと顔が熱くなった。
「ですが」と、珍しく会長に反論する灘だったが勿論会長が許すはずもない。
「いいから外で待機してろ」
そう、突き放すような会長の言葉に灘は「またなにかあればお呼び下さい」とだけ残し、仮眠室を後にした。
扉の閉まる音を最後に、今度こそ会長と二人きりになってしまう。
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