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「それにしても、どこから入ったらいいんだろ……」 「ここは正々堂々正面突破でいいでしょ」 「えっ? このままっ?」 「どうせ学園の出入り口にはどこにでもカメラは仕込まれてるんだし、また何かあったら走って逃げればいいよ」  さらりと言ってみせる志摩。  今の今までは栫井や志摩がいるからなんとかなったものの、今度こそもし捕まる可能性だってあるのだ。  そう思ったが、志摩と栫井、二人がいたらなんとかなりそうだな。と志摩の強引な策にも納得させられそうになる自分もいた。  というわけで、どうやってこの学園のセキュリティを突破するかということについて志摩と栫井と話し合っていたわけだけれども。  本来ならば学生の出入りにも許可証がないと不可能とされているうちの学園のゲートに、実質休学中である俺と栫井がいきなり現れて簡単に通してもらえるかわからない。  何かしらの手続きをさせられることになるとして、一番厄介なのはそんなことをしてる間に会長たちの耳に俺達の動向が耳にことが入るのだった。  どうせなら、休学中の身というこの立場を最大限利用したいというのが本音だ。  誰にも気付かれないよう、なんとか学園内部に入り込むことは出来ないだろうか。  そう考えたときだ。 「……こいつに任せる方が馬鹿だな」  溜め息混じりに吐き捨てる栫井。そんな栫井の態度に、志摩がぴくりと反応する。 「裏門に監視カメラが使えないところがある。……バリケードがあるから外部からの侵入については問題はないだろうと言ってたから、恐らくまだ放置したままだ」  流石副会長だ。栫井が副会長らしいことをしてるのを初めて見たかもしれない。  むっとなる志摩を無視して続ける栫井に、つい俺は拍手しそうになった。  それだ、それなら人目を最小限に押さえる事ができる。 「バリケードってまさか、あれを登るつもり?」 「え、そんなに大変そうなの……?」 「見たら分かるよ。と言っても、まあ不可能ではないけどね」 「別に全員で登る必要はない。一人がバリケードを昇って、そのまま裏口の鍵を開ければいい」  一人って、まさか。  嫌な予感がして、思わず栫井を見た時だった。 「――お前なら出来るだろ、志摩亮太」  ああよかった、俺じゃなかった。 「ああ、副会長さん自信無いんだ。まあいいよ。運動音痴に明らかに非力そうなやつ、この中じゃ確かに俺が適任だろうね」  確かに志摩は運動神経はいいし、怖いもの知らずなところもある。  ついでにチクチク人を刺しながらもご指名には悪い気はしてないらしい。気をよくする志摩を横目に栫井がコイツちょろすぎだろという顔してるが、俺は敢えて何も言わないことにする。 「待っててね、齋藤。今から開けてくるから」 「え、一人で大丈夫?」 「これくらいの潜入なら朝飯前だよ、任せて」 「……そう、じゃあよろしくね」  そして、笑顔で裏へと駆けていく志摩を見送ることとなった。  確かに、志摩よく勝手に他人の部屋に忍び込むし大丈夫か。ここは専門の人間に任せることにしよう。  ということで、志摩がいなくなった校門裏。 「……」 「……」  志摩がいなくなったというだけで、ここまで静かになるものなのだろうか。  既に明るくなっていた空、どこからともなく鳥の囀りが聞こえてくる。すっかり朝だ。  門に凭れ掛かり、そのまま座り込んでいた栫井はこちらを見ようともしない。  俺もなるべく栫井のことを意識しないようにと思ったが、無理だ。どうしても今朝のキスのことを思い出しては、ちらちらと栫井の方を伺ってしまう。 「……おい」  なんて思った矢先、栫井がこちらを睨んだ。 「な、なに……?」 「さっきからちらちらちらちらうるせえんだよ」 「な、何も言ってないよ」 「目の動きがうるせえって言ってんだ。分かんねえのかよ」  そしてしっかりと俺の視線も気付かれていた。  栫井からの指摘になんだか無性に恥ずかしくなりながらも、俺は「ごめん」と呟いた。  そして再び沈黙が流れる。流石に気まずくなり、俺は咄嗟に話題を探った。 「……栫井は、これからどうするの?」  ええいと半ばヤケクソになった俺は栫井に問いかければ、細められた目が、ちらりとこちらを向いた。そして、それもすぐに逸らされる。 「……一応、生徒会に顔出すつもりだ。……休学届けは出されてたみたいだけどな」  てっきり関係ないだろ黙れと突っぱねられると思っていただけに、普通に答えてくれる栫井に驚いた。  やはりそうなるのか。この後の栫井のことを考えるとこちらまでお腹が痛くなりそうだ。 「……そっか」 「あんたは……本気であの人を止めるつもりなわけ?」  今度は栫井の方から質問が飛んでくる。 『あの人』と口にした瞬間、僅かにその声音が変わったような気がした。ここで嘘を吐く必要もないだろう。俺はうなずき返す。 「志摩亮太と二人で?」 「……うん。約束したから」 「……」  志摩は俺のために兄弟を切り捨てた。俺はそれに応えたいと思った。有り体に言えばそれだけが俺達の全てでもある。  無論、俺自身の平穏な学園生活のためでもあるが、そこに至るまでに背中を押してくれたのは間違いなく志摩だった。  俺の言葉を聞いて、「あ、そ」と小さく栫井は呟いた。そして再び沈黙。と思い器や、ポケットを弄っていた栫井は何かを取り出した。 「おい、手を出せ」  立ち上がる栫井。なんだろうかと思いつつ、促されるがまま俺は栫井に手を差し出した。  その時、広げた掌の上に何かが置かれた。 「っ、これって」 「……俺の部屋のカードキー」 「えっ?」 「好きに使えよ」と、なんでもないように続ける栫井。そのままふい、とそっぽ向く栫井に、今度こそ俺は狼狽えた。 「えっ、でも……」 「うるせえな。いいから持ってろ」  ただでさえ大切な合鍵を貰うわけにはいかない。  慌てて栫井に返そうとするが、栫井は頑なにそれを受け取ろうとしなかった。  それどころか。 「あんたの部屋、阿佐美詩織と一緒だろ」 「……っ!」 「あいつらとはやりにくいだろう、普通に。……俺のはどうせいらねえからいいんだよ」 「必要ないなら適当に捨てとけ」これは、栫井なりの優しさなのだろうか。  ぼそりと吐き捨てるように呟く栫井に、俺は掌の中の鍵に視線を落とす。見た目よりも重く感じた。けれど、その重みは俺の気を引き締めさせるのには十分なものだった。 「栫井……ありがとう」 「邪魔だったから処分しただけだ」 「……そっか、それでも嬉しいよ」 「ありがとう」ともう一度口にすれば、栫井は俺に背中を向ける。もしかして照れているのか。  栫井からのプレゼントは素直にありがたかった。俺はそれを失くさないようしっかりとポケットにしまい込む。  そのときだった。 「ねえ、今齋藤に何かしてなかった? お前」  どこからともなく聞こえてきたその声に、背筋がひんやりと冷たくなった。  ――志摩だ。  ゲートの向こう、既に侵入成功していたらしい志摩は走ってここまで戻ってきたようだ。柵越しに栫井を睨みつけていた。

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