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そんなこと考えてる内に、あっという間に俺達は学生寮の三階までやってきていた。
幸い通路に人気はなく、俺たちは難なく栫井の部屋へと辿り着くことができた。
「齋藤、鍵」
そして志摩もようやく口を利いてくれた。ホッとしながらも俺は栫井から貰っていたカードキーを取り出そうとスラックスのポケットに手を突っ込んだときだった。いつの間にかに背後に立っていた志摩の手が、割り込むようにしてポケットの中に侵入してきたではないか。
「ちょっと、志摩っ」
「なに?」
「なに、じゃ、なくて……っ」
手ががっつり重ねられようがお構いなしである。俺の手の中からカードキーを奪った志摩は、そのままポケットから手を引き抜いた。そして、何事もなかったかのように栫井の扉を解錠する。
本当に、なんなんだ。
言いたいことは色々あったが、志摩のこういうところを気にしだしたらキリがないのも事実だった。さっさと扉を開き中の様子を確認する志摩に続いて、俺は栫井の部屋へとあがった。
相変わらず物が少なく、質素な部屋だ。
一足先に机の下からクローゼットの中、トイレまで確認した志摩は「誰もいないみたいだね」と呟いた。
「そりゃあそうだよ」
「まだ分からないよ。あいつが意図してなくとも、会長さんなら何するか分からないからね」
言いながら冷蔵庫の扉を開く志摩。当たり前だが、そこに人影はない。
「へえ、一応飲み物はあるね。食事はゼリー飲料ばっか。……ま、ないよりかはましか」
なにかをブツブツ呟きながら冷蔵庫の扉をどんどん開け、中身を確認していったと思えば今度は隣の棚までも確認していく志摩。誰か隠れていないか調べるのはまだしも、流石にこれ以上は栫井に申し訳ない。
「志摩、これ以上は……」
「まあ、これくらいなら問題なさそうだね」
やめときなよ、という俺の言葉を遮るように志摩はこちらをくるりと振り返る。そして、志摩は先程までの不機嫌面とは打って変わってとてもいい笑顔をしていた。
「齋藤はここで大人しくしてなよ」
「うん、まあ最初からそのつもりだったけど……」
――なんだろうか、すっごく嫌な予感がする。
「それじゃ俺は早速行ってくるよ。齋藤。何かあったらすぐに連絡しなよ。俺もなるべく早く戻ってくるつもりだけどね」
「うん、気をつけてね」
「齋藤に心配されるなんて、俺も頑張らないといけないな」
なんて言いながらも、さっさと栫井の部屋を出ていこうとする志摩。そこで俺は志摩が栫井の部屋のキーを持ったままだということを気付く。
「あっ、志摩、鍵……」
返して、と言い掛けた矢先のことだった。目の前で勢いよく扉が閉まる。そして、すぐに外からロックを掛けられたことに気づいた、
「……?!」
慌ててドアノブを掴み、捻るが、びくともし ない。
どうやら外から掛けられた鍵は外から解錠しないと開かないようになっているらしい。と、冷静に分析している場合ではない。
「っ、し、志摩!」
――もしかして、閉じ込められた?
慌てて扉を叩いたときだ、携帯がメッセージを受信した。慌てて端末を開けば、志摩からだ。
『齋藤はそこで大人しくしてなよ』
『ちゃんと。じっと。大人しくね』
わざわざ二回に分けて送られてきたメッセージを見つめたまま、俺はそのままその場に座り込んだ。
……まさか、最初からそのつもりだったのか。別に抜け出すことなんて……ない、というわけではなかっただけに、強制的に行動を制限してきた志摩に俺は頭を抱えることとなった。
――栫井の部屋。
志摩が出ていってから数分、玄関、扉の前からふらりと立ち上がった俺はリビングへと移動した。そして、一人分にしては広いソファーに腰を下ろす。
やることがない。かと言って、志摩のように栫井の部屋を漁る気にもなれなかった。
もしかして志摩、最初からこのつもりだったのか。
確かに志摩の言いつけを守らずに破ってきた前科はあるが、それにしたってせめて一言くらいいってくれればいいものの。
今の俺に出来ることなど、じっと志摩からの連絡を待つことだけだった。一応部屋には備え付けのテレビもあったが、今はそれを見る気にはな!なかった。
それに、ここにいるとなんとなく落ち込んだ気分になるのもあった。
栫井の部屋で寝泊まりをし、目を覚ましたとき――栫井の姿がなくなっていた。その代わり、俺の側にはいるはずのない灘がいたのだ。
今思えばあの日からだ、俺と芳川会長の関係が一気に変わったのは。疑惑が確信へと変貌した瞬間、俺は見てきたものの全てが信じられなくなった。
それすらも遠い昔のことのように思えるのだから不思議なものだと思う。
仮眠する気にもなれないまま、ただじっと膝の上に載せた端末を睨んでいたときだった。
不意に、ぱっと端末の画面が明るくなった。そして、表示されたのは志摩の名前だ。俺は考えるよりも先にその通話に出た。
「っ、志摩!」
『その声、もしかして怒ってる?』
「べ……別に、怒ってはないけど。せめて一言くらい言ってくれたらよかったのにとは思ってるよ。……こんな閉じ込めるような真似」
『わざわざそんなこと言ったところで齋藤、はいどうぞとはなんないでしょ。寧ろ俺からしてらみ縛り付けてないだけ感謝してほしいんだけど?』
「……それは」
……そうかもしれないけど。
口をもごつかせれば、『それより本題なんだけど』と露骨に志摩は話題を変えてきた。
『一応、生徒会のやつらの様子は確認できたよ』
流石志摩、というべきだろうか。俺という足枷がない分動きやすいのかもしれない。自分で言ってて少し悲しくなったが。
「聞かせて、志摩」と呟けば、端末の向こうで『勿論』と志摩が笑う気配がした。
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