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第1話
鬼ヶ島に眠る財宝を巡る戦い。
桃太郎の美しい黒髪が剣劇の度に揺れ動く。一合、二合と互いの刀が交差し、火花を散らす。桃太郎は後方へ飛び退き、相手の出方を伺う。凛とした眼差しで見据えるのは、鬼ヶ島の全ての鬼を従える棟梁。
鬼とは、かつて大陸よりやって来た異民族のことを指す。武勇を誇るが数が少ないがゆえに、小さな島に迫害された民である。特徴としては、白い肌に明るい髪色と瞳が挙げられる。現にこの棟梁も、紅毛碧眼の男であった。
白を基調とした陣羽織を纏う桃太郎に対し、黒い装束を身に着けた鬼の棟梁。
火花散る一騎討ちの末、桃太郎が勝利した。勝ちはしたものの薄氷を踏むような思いであった。
鬼達の財宝が人々の手に渡った。鬼達は財宝を明け渡すかわりに、ある条件をつけた。
我らの島を脅かさないでほしい。平穏な生活が続く限り、我らは牙を剥く事はない。
鬼ヶ島の棟梁の願いであった。
棟梁とは、命を奪い、奪われる戦いを繰り広げたばかりであったが、その刃は誰かを守る時に振るうもの、桃太郎自身と同じものだと感じた。
その言葉に嘘偽りがないと判断した桃太郎は、鬼の命は奪わず、財宝を手に養父母をはじめとする人々の住まう場所へ戻っていった。
桃太郎が持ち帰った宝を見て、皆喜んだ。暮らしは豊かになり、ひもじい思いをして弱っていく者の姿は減っていった。
桃太郎は大いに感謝され、英雄として人々にもてはやされるようになった。数奇な出自故に、人との間に埋められない溝を感じていた桃太郎にとっては、鬼討伐により本当の意味で人の輪に入ることができたように感じた。そして、己の成し遂げた事を誇りに思った。
しかし、いつ頃からか。桃太郎の心に虚しさが染みるようになった。
充足は更なる渇望を生むだけであったのだと気づかされたのだ。人々は富を求め、争うようになった。
幸せな笑みは苛立ちへ、談笑は喧騒へと姿を変えた。ここまでなら、彼はきっと耐えられたであろう。
桃太郎に絶望を叩きつけたのは、養父母の変化である。
慎ましやかな暮らしをしていた仲睦まじい老夫婦の姿は、もうどこにもない。芝を刈っていた鎌で妻の首を、洗いたての手拭いで夫の首を、今にも取ろうとするほど、険悪な関係となっていた。
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