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第2話
桃太郎は人の欲望が理解できなかった。鬼を退治したのも、人々の暮らしが豊かになればとの思い来たもので、決して財宝をわが物にしたかったからではない。
何故人は富を求めるのか分からない。そうしてまた、再び人との間に溝を感じるようになり、孤独を背負うこととなった。
こんな未来を望んでいたわけじゃない。
人の暮らしを脅かす鬼を成敗すれば、平和な世が訪れる。そう信じていただけなのだ。
桃太郎は迷い始めた。
そんな彼の変化を察してか、お供の三匹は三者三様に語り始めた。
人に性善説を見出だす犬は、今は宝に浮かれているだけで、やがて元に戻ると慰める。
性悪説に基づく猿は、人間なんてこんなものさと斜に構えて笑う。犬と猿が喧嘩をした所で雉が仲裁する。
「桃太郎、鬼との戦いで貴方も疲れているのでしょう。しばらく気分転換されてはどうですか」
「ありがとう。お前たち」
桃太郎は力なく笑うのを見て、三匹は切ない気持ちになった。
鬼退治という目標があった頃、彼はこんな憂いを帯びた表情はしなかった。桃太郎の養母が作るきび団子につられて家来となった打算的な関係性であったが、彼の太陽を思わせる笑顔が好きだった。凛とした顔立ちと陽の気に包まれた姿を取り戻してほしいと三匹は願った。
そもそも、人々の暮らしは脅かされていたのか。
家来に紹介された場所で、桃太郎は物思いにふけっていた。
幼少期を思い起こす。他の子供とは違った自分を温かく慈しんでくれた養父母。見守ってくれた村の人々。武の才を見出だされてからは、自分を慕ってくれた人々。
あの頃は、確かに貧しかったかもしれない。だが、今はどうだ。
人々はあの頃であれば、一部の貴族しか身に付けられないような豪奢な衣類を纏い、更なる富を求めている。そこにかつての幸せな生活はなかった。
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