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第12話

 その言葉に桃太郎は一瞬固まり、雉は落下した。落下して、わなわなと体を震わせている。 「雉、どうしたんですか!」 「桃太郎、許してください。決して、私は、そのあの、出歯亀しようと思ったわけではないのです。ただ、棟梁宅から『もう、駄目だ』とか『死んでしまう』とか貴方の涙交じりの声が聞こえてですね。これはいけないと思ってその、見てしまったんですよね。そしたら、そのあの、まあ、なんというか、お二人がこんな往来では言えないようなことをしていたので、いや、一瞬しか見ていないんですよ?ちらっと……ちらっと……。見間違いだと思っていたんですが、犬の鼻がそう言ってるんだから、あれは、現実だったんですね。最後の口付けも、真実」  雉は早口でそう言うと気絶してしまった。その発言を受け、桃太郎は、赤くなったり青くなったりを繰り返している。 「雉、しっかりして。貴方は雉です。亀じゃないでしょう」  犬は天然な発言をしながら、雉を介抱しているが、己が止めを刺したことには気づいていないのだろう。 「いやあ、お盛んだねえ」 猿がにやつきながら、品のない手悪戯を繰り返すのを見て、桃太郎は茹蛸のように顔を赤くした。 「き、きび団子で手を打とうじゃないか」  桃太郎は動揺を隠しきれない状態の中、猿に交渉を持ち掛けた。しかし、猿は皮肉な笑みを浮かべ、桃太郎の下腹部を見やる。 「お腰についてるきび団子は、鬼の棟梁の手垢が付いているんじゃないのか?」 「あ、あの人は不潔な手で私に触れたりしない!」 「そ、そんなところも触りあう仲だったんですね。やはり、あの光景は幻じゃなかった……南無」 「雉、しっかりしてください!猿も、雉をこれ以上痛めつけないでください!」 「え?これ俺が悪いの?一人で大人の階段上った桃太郎が悪いんじゃないの?というか、桃太郎お前さあ、そんな雌の顔したまま、爺さん婆さんに会いに行くつもりだったの?」  桃のように淡く染まった頬に手を当て、桃太郎は押し黙るしかなかった。

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