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14※

俺は、今度の今度こそ死んだのだろうか。 魔界に来ることになって時点で命はとうに捨てたも同然と思っていたが、それでもまだ死にたくなかったという気持ちが強い。 体が動かない。動かない、というよりも、無だ。 周囲には何もない。音も聞こえない、何も見えない、汎ゆるものから遮断されたような、そんな漠然とした意識の中俺はただ漂っていた。 体ごと獄長に乗っ取られてしまったのか。 分からない、何もかもがわからない。いくら疑問を問いかけたところで答えてくれる相手など、ここには……。 『おーおー、可哀想に』 何もない空間に、聞き覚えのある声が響く。 人を小馬鹿にしたような軽い声だ。 どうして、と顔を上げればそこには紫色の蝙蝠にも似た生き物が飛んでいた。蝙蝠は俺の前までくると、羽を閉じ、歪に大きな口を歪める。尖った鋭い牙が覗く。 この現実離れしたそれは、間違いない。 ……リューグ。 口にしようにしても声が出ない。それでも、やつには届いたらしい、その蝙蝠はまるで人間のように表情豊に笑う。 『言っただろ、あのとき俺を助けてくれたら悪いようにはしないって』 ――これは夢なのだろうか。 夢にしてはあまりにも生々しい。 まるで頭の中に住み着いてるような存在感に、混乱する。 口に出していないはずなのに、リューグは笑った。 『なんだ、もう忘れたのか?俺とあんたは血を交わした仲だからな、ある程度離れていてもこうしてあんたの精神に干渉することくらいは出来る』 『まあ、誰かさんがもっと血を飲ませてくれてたらこの変態から助けてやることもできたんだけど』と拗ねたように皮肉を口にするリューグに、俺は何も言えなかった。 なんでもありかよ、なんて今更突っ込んだところで仕方ない。 『イナミとの逢瀬を楽しみたいところだけど、残念ながら俺も結構ぎりぎりでさ、取り敢えず、あんたの状況だけ伝えておいてやる』 ……俺の状況? 『気付いてるだろうが、あんたの意識は今完全に体と切り離された状態だ。そんで、今のあんたはただの魂ってわけ。普通なら時間経てば消えるんだが、あの男、お前の魂をどこかに保管してるみたいだな』 幽体離脱、ということか? 考えただけでゾッとしない。 リューグはそれに答えるように片方の羽を広げる。 『あの烏も捕まってるようだし、馬鹿でマヌケなテミッドもいねーし。……なあ、イナミ、あんたはひとりぼっちだ。このままよくわかんねーまま人形としてあの変態看守のコレクションとして生きていきたいか?』 そんなわけないだろう、即答すれば、蝙蝠は楽しそうに羽ばたき、そして近付いてきた。 眼前に迫ったその蝙蝠は想像よりも大きく、後ずさりそうになる。地面のようなそこに手をついた、そこでようやく自分が姿を取り戻しかけていることに気づく。 『イナミ、俺に協力しろ。そうしたら、お前を助けてやる』 どうして、そんなこと。そう言いかけるよりも先に、リューグはニッと口角を上げる。 『お前の血が飲みたいから』 俺は、何も言わなかった。言わなくても、同じ精神世界にいるリューグには俺の気持ちが伝わっているのだろう。影に覆われる。大きな口を開ける巨大な蝙蝠に不思議と恐怖は覚えなかった。 そこから先は記憶がない。記憶がないというのが正しいのかは分からないが、リューグに噛まれてから糸がぶちりと切れ、そこから先訪れたのは今度こそ無だった。 どれくらい経ったのかすらわからない。もしかしたら長い時間が経ってるのかもしれないし、ほんの数秒のことかもしれない。 異変を感じた。 何も感じなかったはずなのに、音が聞こえた。かすかな音だ。靴の底が床を蹴るようなその音をきっかけに、何もなかった世界に音が戻る。 そして、次に戻ったのは視界だった。 先程まで何もなかった世界に景色が戻る。 石造りの天井。そして、檻。四方を囲う鉄格子。 リューグのいう魂が、体に戻ったというのだろうか。 そう思ったが、体は鉛のように重く、指一つ動かせない。眼球も動かすことができない。この状況には覚えがあった。 傀儡状態の体は俺の指示を受け付けない。 完全に取り戻せたわけではない、恐らく、五感を感受することが出来るようになっただけだ。 まるで映像を見てるようなその違和感には相変わらず慣れそうにない。 靴音が近付く。 身構えることもできない。緊張するが、恐らく体には伝わっていないだろう。 仰向けになった俺の視界に、黒ずくめの男が現れた。 ユアン獄長。 やつは、人形のような不気味なほど整った顔に無表情貼り付けて俺を見下ろしていた。今すぐにでも逃げ出したいのに、逃げられない。薄手の手袋に包まれたやつの手が伸びる。頬に触れた瞬間、心臓が跳ね上がりそうになった。 獄長は、気付いていないのだろうか。俺の意識が戻ってることを。わからないが、それ以上に触れられる感覚だけは直接伝わってきて、あべこべな感覚器官にどうかなりそうだった。 頬に触れる掌はゆっくりと首筋へと降り、そして、首輪に触れる。 「……邪魔だな」 隙間ないほど首を締め付けるそれは獄長に触られたくらいではびくともしない。不愉快そうに眉根を寄せた獄長は首輪から手を離した。 そして、首輪の上から何かをはめられる。 瞬間、鉛のように重かった体がビクリと跳ね上がった。それは俺の意思とは関係ない部分での生理的反応で。 「曜」 色のない、薄い唇が動く。名前を囁かれた瞬間、体が反応した。 「……んぅ、ユアン獄長様ぁ……」 己の口から発せられた自分のものとは思えないほど甘い声に、ぞっとした。 あの時と同じだ。ようやく動いたと思いきや、獄長に乗っ取られた体に俺の意思が介入することはできない。獄長に縋り付くようにその上半身にしがみつこうとする体に嫌な汗が出た。しかし、何かに引っ張られ、それは叶わない。 心底ほっとするのも束の間、獄長は俺の口に指を捩じ込む。吐き出したいその異物感。吐き気を覚えたが、あろうことか俺は、いや、俺の体は勝手にその指に舌を絡め出すのだ。 「ん……ぅ……っ、んん……っ」 まるで赤ちゃんみたいに獄長の指にしゃぶり、強請るように舌先でやつの指を愛撫する自分に正直俺は自分をぶん殴りたい衝動に駆られる。 (何やってるんだ、俺、いや、俺は俺だから……じゃあこいつは誰だ?!) そっと手袋を噛み、必死になって獄長の手袋を外そうとする俺の体に、獄長は愉快そうに口元を歪める。 「何を遊んでいる。俺の手がそんなに美味いか」 「っ、すき、です、すき……獄長様、すき……っ」 「そうか、可愛い奴め 」 血迷ったことを恥もなく連呼する己にも真っ青だが、そんな俺に甘い顔をする獄長にもカルチャーショックを受ける。 手袋を外し、素手で俺の唇をなぞる獄長に、俺はというとアホ面で唇を尖らせ、やつの指をしゃぶるのだ。そんな俺を片方の手で頭を撫でる獄長は新しいペットでも可愛がってるかのような優しい目をしてて正直気味悪いことこの上ない。 やめろ、やめろ、何を見せられてるのだ俺は、俺の体で何をしてるんだ、やめろ。 暴れたい気分になるが、相変わらず体は言うことを聞かない。それどころか、獄長の指を根本まで咥えようとする俺に、獄長は上顎と舌を抑え、内側から押し広げるように唇を大きく開かせられる。 瞬間、口の中に何かを入れられる。ほんの一瞬見えたそれがなんなのかわからない、しかし、ピンク色の宝石のようにも見えた。 それを吐き出す術もなく、喉の奥へとするりと落ちていく異物。得体の知れないものを食わされ不安になるが、すぐに異変は出た。全身が熱くなる。脈が乱れる。呼吸が儘ならない。吸っても吸っても新鮮な空気を求めるように肺が、全身の器官が活発に動きだす。 なんだ、これは。俺の額から滝のように流れる汗を拭い、獄長は笑う。 「っ、ご、くちょ……さま……っん……ッ」 唇を塞がれる。挿入される舌に根本から絡め取られ、舌先に掛けて丹念に舐られる。 餌としか見てないとか言っておきながらこの男、何を考えてるのだ。逃げることも拒むこともできず、ただ、奥へと入り込んでくる舌になす術なくそれを受け入れることしかできない。腰に回された手に尻を掴まれる。 そこで自分が衣服を身に着けていないことに気付いた。 左右を割って広げるように伸ばされた掌。 先程までしゃぶらされていた指は広げられたそこに躊躇いなく一気に挿入され、腰が揺れる。呻く俺に構わず、決して細くはない指を付け根部分まで奥深く挿入される。 一本、二本、抉じ開けるように追加される指に、血の気が引く。何よりも、痛みよりも内壁を擦り上げる異物感に恐ろしく気持ちよくなるのだ。 リューグ、何をしてるんだ、早く助けに来てくれ。 泣きたい気持ちでいっぱいになるが、泣くにも泣けないこの状況下、俺は、お腹の裏側を指で揉まれ、口からは声にならない悲鳴を漏れた。熱い、熱くて、痒い。触られれば触られるほど全身が弛緩し、言葉にし難い強烈な快感に脳を支配される。 「ん゛ッ、ん、ゥ゛ッ、んんぅ゛!!」 小刻みに痙攣する下腹部を抱かれ、より深くを執拗に刺激され、全身の血液が一気に下腹部に集中するのがわかった。それどころか先端から熱が滲み、まるで漏らしてるかのようにだらだらと垂れる先走りに死ぬほど恥ずかしくなる。獄長はそれを一瞥するだけで、責める手は止めない。 背を丸め、倒れ込みそうになれば首を金属音ともに首を引っ張られる。天井に繋がってる鎖が見え、それは自分の首へと繋がってる。動けば動くほど首が締められ、俺は、自然と獄長に抱き着くような形になってしまう。 嫌だ、嫌だ。なんだこれ、なんだよ、死ぬのか、死ぬのか俺。 強烈な快感にあっさりと飲まれた体は一回も触られていないにも関わらず射精した。 獄長の服が汚れるが、やつはそれを無視して更に俺の腰を抱き、今度は角度を変えて浅い位置を指の腹で捏ねくり回す。別の生き物みたいに腰が揺れ、痙攣する。射精したばかりのそこは再度頭を持ち上げ始め、精液混じりの先走りを垂らすのだ。 「ぁッ!ぁ、あッ、ひ、ィ、ぁ゛、あぁ、イ゛ッひ、ィッ!」 イッたばかりのそこに甘い痺れが走る。頭の中が真っ白になり、まだ完全に勃ちきれてないそこから熱い液体が溢れた。精液とは違う、断続的に溢れ、足元へと落ちる黄色みがかったそれを見て、顔が焼けるように熱くなった。 嘘だろ、と思うが、恥じらう余裕もなかった。的確に良いところを愛撫され、息する暇すら与えられず、どうにかなりそうだった。瞼の裏で火花が散る。下腹部に力が入らない。一度決壊した膀胱を、尿意を堪えることなんて以ての外。 「ぁっ、ぁ……っ、あぁ……あぁぁ……ッ!」 溢れるそれは止まらない。動きを制御できずに腿を濡らしたそれは無慈悲にも足元へと落ちていき、俺の足元には色のついた水溜りができていた。獄長はそれを見て、「まるで赤子のようだな」と笑った。 泣きたい、泣きたいのにやっぱり涙すら出ない。 最後の一滴まで出しきった俺は、尿意から開放された爽快感と酷い羞恥心と屈辱が込み上げてどうにかなりそうだった。

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