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13※
甘い、甘い夢を見ているようだった。桃のような匂いに、全身を包み込む硬い筋肉の感触に思わず頬ずりする。ドクドクと流れ込む鼓動が心地よい。
それ以上に、腹部、深く突き刺さった異物に突き当りを押し潰されるだけで頭の奥がぐちゃぐちゃになって、振り落とされないように両腕で目の前の男にしがみつく。
「ん、ぅ、あ……ふ……っく、ろしゃ……っ」
「っは、ほんまそうしてはるとかあいらしいおすなぁ曜クン……相手があの烏やと思うてるん以外は」
「ん、ぅ、んん……っ!」
唇を舐められ、甘く吸われる。なんて言ってるかよくわからないけど、頭を撫でられるとそれだけで気持ちよくなって、自分がどこにいるのか何をしているのかすらわからなくなる。濃い霧が掛かったような暗い部屋の中、黒羽が腰を動かす度に繋がった箇所からは生々しい音が溢れ、下腹部に力が入った。
「っ、ふ、……ん……っ、んん……っ」
舌を絡める。舌の先っぽを座れるのが酷く気持ちよくて、ちゅうちゅうと音を立てて吸い上げられるだけで胸が切なくなって、もっと、とその頭を抱き寄せてしまうのだ。
はしたない真似をしてるという自覚すら薄れていた。今はただ、目の前の黒羽にもっと触れてほしかった。
「っ、くろは、しゃ、……もっと、きす……」
「いけへん子やわ、どれ、口を大きゅう開けてもっと舌を突き出してみなはれ」
「っん、ぅ……っ」
瞬間、舌を食われそうな勢いで唇を貪られる。先程までの上品なそれとは違う、舌の肉ごと絡め取られ、唇に食い込む歯、熱い舌に根本から先っぽまでを粘膜ごと舐るようにねっとりと扱かれるのだ。
同時に下もゴリゴリと押し付けられ、同時に上下男の物で圧迫され、内側から犯されていく。
「っ、ぁ、んんっ、ふ……ッぅ……ッ!」
「っは、ほんま、あかん、こんなん歯止め効きひんくなるわ……っ」
「っ、ぁ、あぁっ、や、奥、だ、め……っ」
「こないボクのきゅうきゅうしゃぶりついて今更何言うてはんの、ここ、頭で奥突く度赤ちゃんほしい言うてボクを離しまへんで」
「っ、ん、ひぃっ!」
薄い布越しに人間離れした性器を咥え、ぼっこりと膨らんだお腹を撫でられるだけで堪らなく気持ちよくなり、全身が魚のように跳ね上がる。そのまま脇腹から平らな胸まで撫でられれば、その手のひらの感触だけで既に切羽詰まっていた己の性器が射精したいと打ち震えるのだ。
チャイナドレスの下、裾を押し上げるように膨らみ、染みを作るその頭を指で捏ねられればそれだけでぴゅっと白濁の液体が溢れ出し、それを当たり前のように指で絡め取った黒羽は俺の唇に塗りたくり、キスをする。
「っ、ふ、ぅっ!ぅ、んんっ、ぅむ……ッ!」
次第にペースが上がっていく腰の動きに付いて行けず、慄き、逃げ出そうと浮かす腰すら深く抱き込められ、更に最奥、内臓ごと内側から押し潰されるような挿入に自分のものとは思えないような甲高い悲鳴が漏れる。
「っ、ひ、ぃッ!ぁ、待、ぁッあぁ、待って、いっ、いくっ、ぅ、また、イッちゃうぅ……っ!」
「……っ、ええやん、なあ、見してや、あんさんが花開くところ……っ、もっと、ボクに見せてや……!」
「っく、ひぃ、ぃ、あ、っ、あぁ……ッ!」
キツく抱き締められ、根本まで挿入されたそれを更に奥まで舐るようにねっとりと腰を動かされた瞬間、逃げ場を失った絶頂は呆気なく溢れ出す。甘い快楽の波に呑まれ、わけもわからず目の前の背中にしがみつけば、耳の側で笑う声が聞こえた。そして、当たり前のように唇を吸われ、そのまま首筋、ぜえぜえと上下する胸元へと唇を落とされる。
「なん休んでるん?……まだ終わってへんやろ」
「っ、ふ、え」
瞬間、暗転。押し倒されたのだと気付いたときには遅い。足首の鎖がじゃらりと音を立てる。
……鎖?なんで、鎖なんか。混濁する意識の中、朧気に覆い被さってくる男を見上げた瞬間、太腿の裏、差し込まれる手のひらに足を開かされる。
捲れるチャイナドレスの裾に、剥き出しになる下腹部に、慌てて手を伸ばそうとするが、それよりも男が腰を引く方が早かった。ずるりと中身ごと引きずり出されそうなほどの衝撃に「あぁっ」と声が漏れる。シーツにしがみついた瞬間、一気に奥まで腰を打ち付けられる。
それを何度も繰り返され、徐々に早まるペースに、絶頂を迎えたばかりの過敏な体は与えられる継続的な快感に蝕まれる。緩急つけて挿入され、先っぽの出っ張りで腫れ上がった中を擦られるだけで息が詰まりそうになる。
このままでは、また、もう無理だ。これ以上は。
そう思うのに、自分の意思に反して性器は上を向き、目の前の男の目が怪しく嗤う。細められた、狐のような目。
あれ、黒羽さん、こんな笑い方したか。
そう思ったときにはもう遅い。塞がれる唇に、硬く握りしめられた手。ビリビリと痺れる下腹部に深々と突き刺さったそれは俺が逃げないようにがっしりと固定したまま、腸内へと直接熱い液体を注ぎ込んだ。びくびくと震える爪先。受け止めきれずに僅かな隙間から溢れ出す精液の熱に震え、息を吐く。熱い、腹の中で何かが蠢いてるような、気持ち悪さ。なのに、それ以上に頭が痺れて。
「っ、は……ぅ……」
「っ……ようけ飲みや、ボクの子種」
黒羽さん、と名前を呼ぼうとした一瞬、赤い灯籠に照らされた目の前の男が、その髪が金色に光るのを見て、全身が震えた。そして金糸と同じ頭部に生えた二本の大きな三角の耳に、太く金色に輝く毛長な尻尾。乱れた着物の下、その体、呼吸に合わせて揺れるそれらに『狐』と思わず口にしようとした瞬間、ぶつりと意識が途切れた。
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