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15※
「な、ひィ……ッ」
「っ、は、かわいそーに、こんなに赤く腫れちゃって……っなぁ、ふーちゃんに散々虐められたんだろ?オレが慰めてやるからな」
「ぃ、や、やめ、……っ!」
やめてくれ、という言葉は続かなかった。
指で左右に押し拡げられた肛門を嗅がれるだけでも顔から火が吹きそうだったのに、この猫男はあろうことか長い舌でべろりと舌を這わせたのだ。
無数の棘のような突起物が生えた舌はざらざらしてて、散々嬲られたせいで過敏になった体は掠っただけでもヤスリにかけられたような痛みを覚えるのに、それを無視して拡張されたそこに舌先をぬっと挿入されれば背筋が凍るような衝撃に体が飛び跳ねそうになる。
「っ、ぁ、や、う、そ、うそうそ、うそぉ……っ!」
能代の舌とは違う。中を舌で撫でられればそれだけで内側を無数の棘で引っ掻かれたような刺激に堪らずのたうち回りそうになる。痛みもあるがそれ以上に、羞恥とあまりにも強い刺激に腰が震えた。目の前の能代にしがみつけば「おお、可哀想に」と抱き止められる。
「マオ、あんた曜クンが痛がっとるやないの。……可哀想な目に遭わせとるんわどっちゃろうか?」
「猫舌のくせに舐めたがるのほんま悪い癖やなぁ」と、呆れたように目を細めた能代は慰めるように俺の背中を撫でるのだ。慈しんでるつもりなのか、背面部、開いた部分から素肌を撫でられ、息を飲む。浅い部分をぐるりと円を描くように舐め回したマオは、逃げようとする俺の腰を捕まえたまま一旦舌を引き抜き、濡れたそこに唇を寄せてキスをするのだ。
「だって皆嫌がるけど俺は好きなんだもん、舐めるの。なあ、曜。けどお前の場合は随分と嬉しそうだな」
「っ、ぅ、や……っ」
「本当、やらしい給仕だな。お前、料理運ぶよりも閨で雄の相手した方が向いてるんじゃないか?」
「っ、ふ、ざけ……っんん、ぅうっ!」
言い終わるよりも先に、ジュルルルッ!と音を立て中に残っていた体液ごと啜られれば頭の中が真っ白になる。
気持ちいい、なんて認めたくもない。ふわふわと夢を見てるような脳味噌は既に先刻の能代との行為のせいでぐずぐずになっていて、逃げたいのに、体が思うように動かない。
「ぅ、あ、……っ、や、だ……っ、も、やめて……ッ!」
再び挿入された濡れた猫の舌は腹の中を隈なく舐めるのだ。わざと舌の表面で刺激するように執拗に唾液を擦り付けられ、ぐちゅぐちゅと音を立てて本来ならば届くはずのない奥まで侵入してくる熱い舌の愛撫から逃げることもできない。腿を掴まれ、足を広げられ、下腹部ごと食われる勢いで肉壁を執拗に舐め回されるのだ。
痛いはずなのに、それ以上の熱に当てられ目眩を覚えた。まるで下半身が別の生き物のように痙攣し、そのくせ感覚だけは生々しいまでに脳へと届いてくる。
「っ、は、曜の中、すっげ……んんっ、は……美味いな、ここ、舌で撫でる度にどんどん汁が溢れてくるじゃん」
「ぅ、や、さわ、るなっ、ぁ、んんっ、ぃ、や、やだっ、握……る、なぁ……っ!!」
奥から浅いところまで舌が行ったり来たりしては丁度性器の裏側のところをマオに舐められ、頭の奥がじわりと熱くなる。
――なんだこれ、なんだ、なに、俺の体どうなってるんだ。
マオの言う通りだった。そこを固くなった舌で、表面のざらざらで何度もコリコリって舐められるだけで全身から汗が噴き出し、チャイナドレスの下、必死に裾を持ち上げ主張するそこからは透明の汁がどろどろと溢れて止まらない。それを指で掬うマオは、俺の性器に塗り込むようにそこを擦りだすのだ。
「っ、ぁ、は、ぁ、っ、や、だぁ……っ、やだ、マオ……っの、しろさ、助け……ったしゅ、け、ぇ……ッ」
「助けてやりたいところやけんど……こ れくらいで弱音吐いてたらあんさん身ィもたへんよ」
「っ、ぅ、も、や……っ、ぁ、帰りた……っ、帰りたい……っ、帰して……っ」
「そないなこと言わんといてぇや。……曜クンの帰るところはここや」
「っ、きゅ、ふ」
唇が、塞がれる。赤い舌に唇から頬、そして涙が溢れる目尻を舐め取られ、ごく自然な動作で能代は俺の頭を掴んで抱き締めるのだ。そして、耳に唇を押し当てられた。
「ボクの膝の上」
膝、というよりも、股間の上と言うか、なんかまた当たってるんですけどなんて言う俺の言葉も内臓を愛撫する猫舌により掻き消される。
「キミが死ぬまでここで飼い殺すのもええなぁ、邪魔者が入らないよう閉じ込めて、ボクの上で死ぬんや」
「ぃいい、やだぁ……っ」
「雄猫に尻の穴舐められて子種垂れ流して喜んでおいて何言うてはるんや、キミみたいなどうしょーもない子にはお似合いやろ」
「っ、ぉ、れ、よろこんで、なんか、ぁッ、は、な、い……ッ!ひ、ッんぎ!」
瞬間、マオに腰を持ち上げられる。頭が低い位置に落ち、自然と腰を突き上げる体勢にぎょっとするのも束の間。
無理な体勢にも関わらず、執拗な舌での愛撫と頭に血が昇りより一層快感が直にやってきた。
食われる。捕食される。脳神経どこかしらいじられてるのかもしれない、じゃないとおかしい。痛覚すら麻痺したみたいにビリビリと甘く痺れる下半身にとってもう何もかもが快楽に変換され直接頭を掻き回してくるのだ。
「ぁ、あ、待っ、舌、ら、めっ、ぬっ、ふ、ぅ、抜い、ぃい……ッ抜いて、抜っ、ぅ、あ、ひ、んんぅっ!!」
ぴんと爪先に力が入る。イく、と思ったときには遅かった。外部と中を刺激され、マオに握り込まれていた性器からはどろりと精液が溢れた。頭の中すらも白く塗り潰される。何も考えられなかった。
肛門から舌を抜いたマオが性器から溢れる精子を長い舌で、熱い唇でまるでご馳走でも前にしたかのように直接啜るのだ。その刺激と熱でまた精液がびゅっと溢れ出し、マオが「やっぱり搾りたてだよなぁ」と人でなしみたいなことを言っていたのだけが頭に残っていた。
そもそも、人ですらなかったが。
「ふ、ぅ……ッ、ひ……ッ」
全身を舌で嬲られ、弄ばれ、どこもかしこもふやけてしまってるんじゃないだろうかと思うほどだった。
捲り上がった裾を下ろすことを許されぬまま、男の形をした二匹の物の怪に体液を啜られる。
「っ、も、やめ……っ」
「そないいけず言わんと、いい加減認めなはれや。……曜クンはボクのやて」
散々舌で嬲られ、すっかり柔らかくなった肛門を長い爪で左右に開かれればひくりと腰が揺れた。やめろ、と能代の腕を掴もうとするのに、力が入らない。体が抵抗する気を失っている。力の差ではどうやっても敵わないと思い知らされた今、抵抗すら体力を浪費する原因になる。長時間の性行為とその快感に疲弊しきった体は既に限界に近かった。
なけなしの力でふるふると首を横に振るが、能代はくつくつと喉を鳴らして笑うのだ。細く鋭いその目を更に細まる。そして、逃げようとする俺の体をぐっと抱き寄せ、マオの唾液でビチャビチャに濡れそぼったそこを人差し指の腹で撫でるのだ。
「……見とうみ、曜クンのここ、こない寂しそうに口開いて誘うとりますわ」
「ち、が……」
「ほんま助平な子やわ、まだ食い足りんのやろ?」
「奇遇やなぁ、ボクもや」と、頬を舐められ、その濡れた舌の感触にさえ絶頂に近い快感に襲われるのだ。びりびりと痺れる脳髄に、腰が重く疼いた。無意識の内に下腹部にきゅっと力が入り、能代の口元は弧を描く。
「や、だ、も……っ」
「ふーちゃんはしつこいからなぁ、俺ならふーちゃんよりも優しいけどどう?」
「っど、って……な、に言っ……へ、んん……っ」
当たり前のように唇を奪われる。飴かなにかを見つけたように人の唇を貪るマオから逃げる暇すらなかった。顎を掴まれ、音を立てて執拗に唇を甘噛みされる。
本当に食べられそうで怖かった。俺は抵抗することすらできず、ただ、伸し掛かってくるその体重に押し潰されそうになりながら受け入れるしかなかった。
「ぁ、は、っ、んんっ……ぅ、ん、ん……っ!や、ぁむ、……っふ、ん、ぅう……っ!」
鼻で呼吸をすることすら忘れそうになる。人のケツを舐めた口でキスをするなと思うのに、ざらついたヤスリのような舌で口の中を掻き回され喉の奥まで粘膜ごと舐め回されれば何も考えられなくなる。
面白くなさそうに目を細めた能代に頬を舐められ、同時に二人の舌に舐め回され、文字通りもみくちゃになる。
「っ、ん、ぅ、う、……っふ、……ッ!」
悪戯に太ももや胸を撫でられ、顔中キスされる。嫌なのに、抵抗する気力は失せていた。自分がどこにいるのかもわからない、どんな顔をしてるのかもだ。
甘い匂いに思考すらも犯されているようだ。まるで悪い夢を見てるかのような非現実感の中、口の中を舐っていたマオの舌が音を立てて引き抜かれる。口を閉じるのを忘れていた俺の唇をなぞるように撫で、マオはうっとりと目を細める。
「っ、はあ、やべ……俺曜の体液ならずっと啜ってられそー……」
「アンタが言うと洒落に聞こえへんわ」
「……ん?」不意に、能代の目が開いた。そして、後方、外と唯一繋がる扉の方へと視線を向けた。
「ふーちゃんどしたの?」
「……なんやの、けったいな気配が……」
先程までの緩みきっていた能代の表情筋が緊張する。
その表情には怯えに似た色すら滲んでいる。ずるりと肩から落ちる着物を直すことすら忘れ、一点を見つめたまま動かなくなる能代に流石に疑問を抱いたようだ。俺を抱いたまま、マオは「気配?」と首を傾げた。
しかし、それに応えるよりも先に能代は大きく起き上がった。反動で飛び上がりそうになる俺を抱き抱えたマオ。
何事かと視線を向ければ、能代の頭の上にはピーンッと伸びた二本の金色の耳と、同じく針金みたいにピンと伸びた九本の同色の尻尾が毛を逆立てていた。
「……ぁ、ッ、あかん、これは……!!この気配は、息遣いは……!」
「んん?なんも聞こえねえけど……もしかして、『アレ』か?」
人の胸を揉みながら、マオは慣れた様子で能代に聞き返す。なんだ、アレって……。というか人の胸を揉むな。俺の胸は手持ち無沙汰をどうにかする小道具ではない。……かく言う俺も、マオと同じだ。突然見えない何かに対して怯え出す能代に、もしやこれはチャンスなのではないかと思った。ソファーの隅っこ、まるで人を抱きまくらよろしく抱きしめたまま丸まる能代はマオの腕を掴み、懇願する。
「マオ、早う外にいるあの悍ましい怪物をどっか追い払っといてえや……」
こんな弱々しい能代見たことない。というか先程まで好き勝手振る舞っていた男と同一人物かどうかすら疑わしいほどの豹変っぷりに俺まで恐ろしくなってくる。
あの能代をこれほどまで萎縮させるということはもしや余程恐ろしい魔物がいるのか……?一瞬黒羽が助けに来たのかとも思ったが、状況が状況だ。安心することはできなかった。
ぶるぶると震える能代と、青褪める俺とは対象的にマオはいつもと変わらない様子で「うーん」と何かを考えているようだ。そして。
「じゃあ曜と交尾していい?」
今後に及んでこの男、私利私欲に走るつもりである。
「かまへんよ」
かまうわ。かまえよ。俺は公共紙幣か。
先程までの渋りっぷりはどこいったのか、かまへんかまへんをする能代にマオは「ふーちゃん最高!」と机に乗り上げ、そして瞬きをした次の瞬間、巨大な化け猫が現れた。二股の太い尻尾を撓らせた化け猫マオは凍り付く俺にぐっと顔を寄せる。
「待ってろよ、すぐ片付けてくる」
大きな二つの猫目が俺を覗き込む。無数の鋭い牙を剥き出しにし、ニィッと三日月型に口を歪めて笑ったのだ。
その裂けたように大きな口から垂れるヨダレがぽたぽたと顔に垂れる。食われる。色んな意味で。圧倒された俺は仰け反ったまま、マオがその場から移動するまで動けなかった。
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