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「そう気に病むな、誰にでも勘違いはある」 「……う、うぅ……すみません……」 正直、恥ずかしい。 何故俺はアヴィドに慰められているのだろうか。アヴィドからしてみれば勝手に勘違いした自意識過剰のガキなのに、リューグなら絶対嫌ってくらいネタにしてイジってくるだろうがアヴィドはそんなことしない。これが人間性の差というやつか……相手は吸血鬼だが。 「それよりも、伊波。さっきの話だが……」 「あ、あの……俺も、聞きました。ヴァイスの口から……俺を、実験体にするって……それで、そのとき一緒にいた友達も連れて行かれてしまったんです」 頭はまだこんがらがったままだった。 そうだ、テミッド。巳亦。黒羽さん。大丈夫だろうか、と不安になり、いても立ってもいられなくなる。立ち上がろうとして、「まあ落ち着け」とアヴィドに肩を掴まれた。 「つまり伊波、君はあいつに友達を人質に捕られているということか。それでその代わりに協力を要請されていると」 「は……はい」 「それなら話が早い。少年、俺が君の友達を助けてやるから俺に協力してくれないか」 「します、なんでもします!」 俺の方から頼みたいくらいだったのに、まさかアヴィドの方から持ち掛けてくるなんて。咄嗟に手を挙げれば、アヴィドは驚いたように目を丸くする。 「おい、少しは内容聞いてから決めた方がいいんじゃないか?」 「いえ、テミッドたちを助けてくれるなら……俺は……っ!」 手段を選んでる暇などあるのか。そう、逸る俺にアヴィドは目を伏せて小さく笑うのだ。 「なるほど、噂通りだな」 「へ?」 「……リューグのやつがえらく君のことを気に入ってるようだったが、確かに話に違わぬお人好しのようだ」 リューグが?アヴィドに?俺のことを? あいつ変なこと言ってないだろうなと思ったが、予想してなかっただけに一瞬思考停止する。そんなこと言ってたのか、いつも俺に嫌味と嫌がらせしかしないくせに。 「そ……そんなことは……」 「恥ずかしがることはない。仲間思いなのは立派なことだろう、寧ろ誇るべき美点だ」 「あ……う……」 アヴィドに褒められると本当に自分が立派な人間みたいに思えてくるから不思議だ。なんだろうか、褒め上手というか……不思議な人だ。自信が湧いてくるのだ。 励ますようにポンポンと背中を叩いたアヴィドだったが、すぐにその表情から笑みが消えた。真剣な目だ。俺は慌てて背筋を伸ばす。 「俺の目的は一つ、あの男――ヴァイスの化けの皮を剥がすことだ。そして監獄へとブチ込む」 「化けの皮を……」 「既に餌はばら撒いてある。現に君も見たのだろう、あの男の異常性の一片を」 言われて、俺は地下の屍を思い出した。 頷き返せば、アヴィドは頷く。 「この店には既に俺の部下が入り込んでいる。あとは君の捕まった友達を見つけ出せば早い」 「あ、あの……っ」 「どうした、少年」 「……なんで、アヴィドさんがこんなことしてるんですか?」 警察、というか自警団のような真似。それこそ風紀を取り締まる獄長……いや、獄吏の仕事ではないか。 尋ねれば、アヴィドは少しだけ眉を動かした。 「……地下監獄が閉鎖、監獄長の解雇・不在に当たって、現在この都市の無法地帯になりつつある。このままでは以前の魔界、いや、厄介を一箇所に集めてる時点で更に面倒な状況になることは避けられんだろう」 「……それは……」 「我が魔王様の望みはただ一つ、魔界の平和だ。そのために平和を脅かす危険因子は早急に排除しなければならない。なお且つ平和的に、と。――排除だけならまだ楽なのだろうがな」 「ま、おう様……」 「君はまだ会ったことがないのだったな、我が魔王様に」 こくりと頷き返せば、アヴィドは薄く笑う。 「彼も君と同じお人好しだ。恐らく、君ならば仲良くできるのかもしれないな」 ……アヴィドは現魔王お願いのために危険人物であるヴァイスに探りを入れていたということか。 しかし、話を聞けば聞くほど親近感が沸くというか……魔王様か、あまりにも強大な存在すぎて全く想像できなかったのに、黒羽やアヴィドから聞く魔王様はきっととてもいい人なんだろうと思えるから不思議だ。

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