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「確か、ここであってますよね」 「ああ、そうそう。ここだよここ、わざわざありがとな!」 「いえ、俺にはこれくらいしか出来ることがありませんので」  そう笑う岡部に、「まあな」と口を開く岩片の頭を慌てて叩いた。  どうやらギリギリ聞き取れなかったようだ。せっかくいい感じになっていたのにも関わらずボロが出てきた岩片に冷や汗を滲ませる。 「んじゃ、俺たちは帰るから。岡部も早く帰れよ」 「あ、はい。それもそうですね……じゃあ俺はこれで失礼させていただきます」  ここはさっさと別れた方がいいだろう。そう判断した俺が話を切り上げようとするば、岡部は嫌な顔をするわけでもなくそう納得したように頷いた。 「じゃ、また明日なー」  そのまま踵を返し、来た道を戻っていく岡部を見送る岩片は言いながらぶんぶんと手を振る。  そして、その後ろ姿が見えなくなったのを確認し、俺たちは部屋に戻った。 「よし、一人目ゲットー」  部屋に入るなり、そう言いながら岩片はソファーの上に飛び込む。そのまま跳ね返って床にずり落ちていた。ざまあみろ。 「親衛隊ってまだ岡部承諾してないじゃん」 「いちいち細かいこと気にすんなよ。あれはもうなったも同然だって」  なにを言い出すかと思えば本当になにを言ってるんだ、こいつは。再びソファーにしがみつくように座り直す岩片に俺は目の前のやつがアホかバカに見えてきた。 「なんだよ、その目は。興奮するだろ」 「いやだってまじでちょっと意味わかんなかったからさ。いつも興奮してるやつがなに言ってんだよ」 「お前超俺のこと見てんじゃんストーカーかよ」とか言い出す岩片。否定してくれ。 「俺、親衛隊と友達って同じだと思うんだよね」 「なんだよいきなり」 「だってさあ、都合がよくて利害無しに守ってくれるってとことか一緒じゃん? だから、岡部はほっといても俺の味方になるよ」 「そうか? 確かに岩片になついてたけど、それならさっき一緒に岡部の部屋いっときゃよかったじゃん」 「わかってないなあ、物足りないくらいの関係を維持して相手が折れて主導権をむしり取るまでは我慢しなきゃなんねーんだよ、こういうのは」 「駆け引きの基本だろ」そうせせら笑う岩片に、ああそう言えばこういうやつだったなと再確認する。  岩片と話していたときの岡部の楽しそうな顔を思い出してしまい、なんだか同情せずにはいられない。 「ま、あの調子なら大丈夫だろう。取り敢えず二人目だな」 「あ、もしかしてこれってアレ? 目指せ友達百人的なノリ?」 「んなわけねーだろ」  ですよね、流石にそんなセフレ探しより無謀なことしませんよね。 「目指せ下僕百人だ」  もっと酷かった。 「ま、そういうことだから岡部のことは気にすんなって」  友人を下僕宣言して気にするなと言う方が無理な話なのだが、確かに岡部のことに関しては岩片に任せた方が良いだろう。  心配だけど、残念ながら岡部がなついているのは岩片だ。 「はいはい」と適当に答えながら俺はベッドに腰を下ろす。 「そういや、岩片お前もう一人候補いるとか言ってたよな」  そう尋ねれば、岩片は「ん? あー言った言った」となんとも歯切れの悪い返事を返してくれた。 「そっちの方はどうなの? 俺まだなんも聞いてねーけど」 「どうっていうか、ま、なんとかなるみたいな」 「なんだよそれ」 「ハジメは気にしなくていいんだよ」 「またそれかよ。俺やることねーじゃん」 「なに? お前俺に奉仕したくてしたくて仕方がない口か?」  落胆する俺に、にやにやと口許に下品な笑みを浮かべる岩片。こいつが言うと下ネタにしか聞こえないのは何故だろうか。 「そう命令してきたのはどこのどいつだっての」 「まあ、確かにな。言ったの俺だわ。でも今んところハジメ君にやってもらうことねーな」  そう続ける岩片に、なんだか肩透かし食らったような気分になりながらも俺は「了解」と呟いた。  命令されて喜ぶような性的嗜好をしてるわけではないが、なんとなく腑に落ちない。が、まあ平和が一番だ。 「拗ねんなよ。なんかあったらすぐ頼むからさ、そんときはよろしくな」 「あんま無茶なことすんなよ」 「心配してくれてんの? 可愛いやつだな」 「お前が無茶したらその反動が俺にくるんだよ」  相変わらずのにやけ面に笑みを引きつらせれば、岩片は「素直じゃねえな」と肩を竦めた。俺からしてみれば岩片の思考回路がひねくれすぎているようにしか感じないわけだが。 「まあ、そういうわけだからハジメは他の候補見付けとけよ」 「俺がか?」 「勿論、どうせ暇なんだろ」  いやまあ確かに暇かもしれないけど。探すのが岩片の友達になれそうで尚且つある程度喧嘩出来るような相手なんてそういないぞ。  早速無理難題を吹っ掛けられ狼狽える俺。そこまで考えて、ふと今朝絡んできた三年の変人眼鏡・五条祭のアホ顔が脳裏を過る。……いや、あいつは無しだな。無しだ。  一番岩片と一緒にさせたくないタイプだ。 「ハジメ、すごい顔になってるけどなんか心当たりがあるのか」  そしてこういうときに限ってなんでこいつは悟るんだ。 「全くない」  そう断言する俺は、僅かに顔を青くさせながらぶるぶると首を横に振る。 「なんだ、変なやつだな」  そしてそんな俺に対し頬を弛ませる岩片はそう笑う。残念だがお前だけには言われたくない。 「取り敢えず、明日にでも彩乃に詳しい話聞きに行くか」 「岩片がか?」 「なんだよ、その目は」 「……いや、なんか岩片と五十嵐って相性悪そうじゃん」  というか寧ろ五十嵐の方が岩片のことをよく思ってなさそうだ。  今回はゲームのターゲットということで五十嵐が手を貸してくれているが、それがなければきっと五十嵐は岩片を邪険にしてるだろう。というか既にしてそう。 「バカだなー体の相性は抜群かもしれないだろ」 「やめろ、うっかり想像しただろ」 「本当お前はスケベだな、ハジメ」 「そのおっさんみたいな言い方やめろ」  想像は想像でも返り討ちに遭ってボコられてる岩片のだけど。冷やかすように笑う岩片に若干ムカつきつつ、「とにかく」と俺は切り換える。 「五十嵐と話すときは俺呼べよ」 「はいはい、わかってるって。もうハジメったら心配性なんだから」  俺の言葉にヘラリと笑う岩片は、軽薄な調子で続けた。本当にわかってるかどうかわからなかったが、岩片は信頼関係に響くような真似をしない。  俺に無断で行動するようなやつではないとわかってはいたが、やはり心配だ。それに、岩片の言っていたもう一人の親衛隊候補のことも気になる。先ほどは上手くかわされてしまったが、念のため気にしておいた方がいいかもしれない。

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