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25※

「ま、さおか……っ」  降ろしてくれ、と言っても呂律が回らない。  ラウンジを出て、暫く。  ようやく降ろされたかと思ったらそこはベンチの上のようで。 「本当……お前、あんなモヤシぶん殴って逃げればいいだろ。俺の時はまじで嫌がってたくせに」  座らされられ、政岡は怒ったような顔をする。  望んでいた新鮮な空気、窓から入る日の光は望んでいたものだった。それなのに、全身焼けるような熱は収まらない。 「おい……?」  思考が儘ならず、押し黙る俺を不審に思ったようだ。  怪訝そうな顔をした政岡に顔を覗き込まれ、一瞬、心臓が止まるかと思った。 「……お前、何か盛られたのか?」 「……ッ」  その一言に、今度は心臓が跳ねる。  政岡の目から見ても今の俺は異常ということだろうか。  そう思えば居た堪れなかったが、それ以上に政岡の反応は意外なものだった。 「あんの馬鹿神楽……ッ」  舌打ち混じり、立ち上がる政岡。  そのままどこかへ飛んで行きそうな政岡に、俺は咄嗟にその服の裾を掴んだ。  そんな自分の行動に目を丸くする政岡。  そして、俺自身も例外ではなかった。 「……っ」  しまった、と思うけど、それでもなんでだろうか。  まともではないからか、今一人になるのは酷く心細くて、俺は政岡から手を離すことが出来なかった。 「お……尾張……っ」 「悪い……ちょっと、あの、一人じゃ……自信ないっていうか……」  もう少しだけ、一緒に。そう、言葉の代わりに視線を向けた時。  伸びてきた政岡の手に、頬を撫でられる。  その感触にたじろいだ時、今度は唇に柔らかい感触が触れた。 「っ、ん、んん……」  やばいとか、なんだこれ、とか考える暇も余裕もない。  思っていた以上に優しいキスに驚いて、次にそのくすぐったさに熱が上がる。 「……政岡……っ」  唇はすぐに離れた。至近距離、政岡と視線がぶつかる。  きっと、これも薬のせいだろう。離れた唇を少しでも名残惜しく感じてしまうなんて。 「……キツいんだろ」  腰に回された手に背筋が震えた。  ムカつく奴なのに、なのに、優しい声が酷く心地よくて、縋りそうになっている俺がそこにいた。  頷き返せば、「目、瞑れよ」と政岡の唇が動く。 「あと、他のことでも考えとけ」  どういう意味だろうか。  聞き返そうとした時、俺の目の前、屈み込む政岡の手が下腹部に伸びる。  下のファスナーを下ろされた時、政岡が何をしようとしているのか分かって心臓の音が大きくなった。 「ま、さおか……っ」  だめだ、と政岡の頭を掴むけど、それを無視して政岡は下着の中から性器を取り出した。  先程まで散々弄られたそこは既に目も当てられないことになっていて、至近距離でそこを凝視されているという事実に顔面から火を噴きそうになっていた。  なのに。 「ゃ、やめろ、って、政岡……ッ」  先走りの滲む先端部に濡れた舌が触れ、全身が震えた。  それだけでもやばいと言うのに、勃起した性器、その裏筋をなぞられれば目の前が白く霞み、頭の中がジンジンと痺れ始める。 「っ、ダメだ、本当、これ以上は、俺……ッ」  堪らず目を瞑れば、にゅるりとした感触が性器全体を包み込む。  暖かいとか、ぬるぬるするとか、気持ちいいとか。  そんな言葉が頭の中をぐるぐる回って、口いっぱい頬張られたそれを舌で愛撫されれば下半身が馬鹿みたいに揺れて、噛み締めていた口から声が、息が漏れてしまう。 「ふ、ッくぅ、う、うぁ……ッ」  汗が止まらない。熱くて、堪らないくらい熱くて、いっそこのまま液体化して消えてしまいたかった。  制御出来ないほどの快感に頭がおかしくなっていくのが嫌なくらい分かって、情けなくて、それでもやっぱり気持ちよくて、噛み合わない体と頭に涙が止まらない。 「っまさ、おか……ッ政岡、政岡ぁ……っ」  舌で全体を擦られれば擦られるほど腹の中ぐるぐる回る熱が徐々に競り上がってくるのが分かった。  髪を引っ張っても、頭を叩いても、離してくれない。それどころか俺の腰を掴んで根本まで咥えてくる政岡にとうとう俺の我慢の糸が切れる。 「――ッ!」  ドクンと脈打つ全身。  瞬間、溜まっていた熱が一斉に溢れた。  射精時の感覚に全て持っていかれそうになるのを寸でのところで堪えた。  が、次にやってきたのは政岡の口に出してしまったという事実だった。 「まさ……」  大丈夫か、と慌てて政岡の肩を掴んだ時。  ごくりと、政岡の喉仏が上下する。 「な……ッなんで、飲んでんだよ……っ」 「汚えだろ、馬鹿じゃねえの」と政岡の肩を叩けば、眉間に皺を寄せたやつは俺から目を逸らす。 「別に、いい」 「……は」 「あんたのなら……別にいい、って言ってんだよ」  その言葉に、今度こそ俺は混乱する。  何がいいのか全く分からないが、こいつの性癖は俺の理解の範疇を超えるということなのか。  呆れる所なのだろうが、何故だろうか、胸の奥がぎゅっとなる。 「ば……ッかじゃねえの……」  やっぱり、この学園は馬鹿なやつらばかりだ。  いくらゲームのためとはいえ、男のものなんて飲む気になれない。 「フン、さっきより元気出たみたいだな」  そんな俺を見て、笑う政岡は俺の身だしを整える。  その言葉に、あ、となった。 「神楽のやつが持ってるとしたら科学部のだろうし、あれはそんなに効果続かないはずだ」 「少し時間経てばもっと楽になる。すぐ動けるようになるぞ」科学部の媚薬はそんなに有名なのかとツッコミそうになったが、言われてみれば先程までの焼けるような熱は引いていき、その代わりに頭の中がすっきりしていく。 「……」 「なんだよ、まだ文句いいてえのか?」 「いや、そうじゃなくてだな……」  政岡は、それを知ってて抜いてくれたのだろうか。  てっきり、それに付け込んでまじでヤラれるんじゃないかと内心焦っていたが、そんな素振りすらみせない政岡に今度はこっちが顔を合わせれなくなる。 「あ……ありがとう、ございます」  恥ずかしいとか、申し訳ないとか、色んなものがごっちゃになった結果敬語になってしまった。  何事かと目を丸くした政岡だったが、 「ぅ、おっせえんだよお前は……! ……ま、俺に惚れてもいいんだぜ!」 「……」 「お、おい……せめて何か言えよ……!」  いつもの調子に戻ったようだ。  何気ない政岡の言葉が胸に引っ掛かる。  ああ、そうか、ゲーム。優しくした方が俺が落ちると思ったのだろうか、政岡は。  そう考えると、少しだけ胸の鼓動が落ち着いてくる。  同時に、もの寂しさのようなものを覚えずにはいられなかった。 「あ、そうだお前、まだ残ってんだろ、薬! なんか飲み物買ってくる!」  そんな俺の思案なんて露知らず、逃げるように立ち上がった政岡はそう言いながら走り出した。 「そこから動くなよ! いいな!」なんて、叫びながら。  言われなくてもこんな状態でどこにも行けねえよ。  釘を刺す政岡が面白くて、つい、少しだけ笑いそうになってしまった。

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