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11※
「っ、ん、ぅん……ッ!!」
上半身を動かし、なんとか体勢を整え直そうとするものの腕が使えないのが痛かった。芋虫かなにかのようにベッドの上で跳ねる俺の腰を掴み、無理矢理高く持ち上げさせる。
必然的に体勢は枕に顔を埋める形になり、息苦しさもだがなによりも背後の状況が全く分からないこの体勢は恐ろしかった。
スラックスを脱がされるのが分かった。血の気が引く。下着越しにケツを鷲掴みにしてくるその手に、汗が、滲む。
「っ、……」
「……どうした? 急にしおらしくなったな、お前」
掛けられるその言葉に、耳が熱くなる。
好きで大人しくしてるわけではない、俺だってどうにかできないかと色々考えてる最中なのだ。そう言い返したいところだが、下手に反応したら虚勢張ってる事を岩片に気取られそうで怖かった。
答える代わりに、今度は自分から枕に顔を埋めた。変な声を出したくなかったのだ。
「……可愛くねえ」
吐き捨てられたその声に反応するよりも先に、腿に岩片の手が触れる。腰を突き上げる体勢というだけでも耐え難いというのに、足を大きく開かされ、息を飲む。慌てて閉じようとするが、余計大きく開かされるハメになる。
まじで、これは、死ぬほど恥ずかしい。下着があるからまだいいものの、と思った次の瞬間、ウエストのゴム部分を掴まれ、そのままずり下げられる。
「……ッ、待っ、岩……」
「聞こえねえな」
ぐ、と、最奥、その窄みに指が触れる。見られてる。と思うとまるで生きた心地がしない。
腕をなんとか動かすが、手錠がガチャガチャと音を立てるばかりで。腰を引こうとした瞬間だった。
ぬるりとした液体がケツの穴に掛けられる。その気持ち悪い感触に堪らず息が漏れる。岩片の指が、その液体を絡み取り、肛門に直接塗り込むのだ。
「っ、ん、ぅ……ふ……」
たっぷりと濡らした指は俺の意思とは関係なしに、ずぷりと頭を埋めてくる。力を入れようが関係ない、ぬめる体内を滑るようにスムーズに中に入ってくるのが分かった。
一本、また一本と、骨ばった指が入ってくるその感触に、肩が震える。息が、浅くなる。
「っ、ぅ、う゛ッ、ふ、ッ、んぅ……ッ!」
耳を塞ぎたくなるほどの、粘着質な水音。
最初は浅い位置を刺激される。浅い位置を執拗に刺激され、腰が、震えた。岩片の指を押し出そうと力んだところで、やつ。内壁、性器の裏側に位置する辺りを指の腹で触れられた瞬間、電流が走ったみたいに全身が、跳ね上がる。
「へえ、……ハジメのいいところはここか」
岩片の声は、笑っていた。
なんだ、今のは。
どろりとした得体の知れない熱が体の奥底から溢れ出す。
それだけではない、全身の毛穴という毛穴から汗がどっと吹き出した。なにをしたんだ。そう、背後を振り返ろうとしたとき。岩片の指が、動く。
「っ、ぅ、ん、んんぅ……っ、」
二本の指にバラバラに刺激されれば、次第に息が浅くなる。
感じたことのない感覚に、瞼の裏がチカチカと点滅する。腰が、震える。逃げたいのに逃れられない感覚に、余計、追い詰められるのだ。
最初はやわやわと指の腹で刺激されるけだった。
それだけなのに、体が自分のものではないみたいに体が反応し、思考回路が乱れる。
嫌だ、気持ちが悪い、嫌だ。そう思うのに、四肢にろくに力が入らない。枕に顔を押し付け、声を殺すことが精一杯だった俺を見て、岩片は笑いながら、ケツを軽く撫でる。
「……逃げてるつもりかよ、それで」
そして、そのまま俺の腰を掴まえた岩片。まずい、と直感した瞬間だった。
「っんん゛ぅッ!」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。たださっきよりも強い力で刺激されただけにも関わらず、全身の血は沸騰するかの如く熱く、そして勢いよく巡りだす。
岩片は跳ねる俺を押さえつけ、更に指を激しく動かした。
「っ、ん゛ッ! 、ぅ、う゛うッ!」
おかしい、おかしい、これくらい、なんてことないはずなのに。いつの間にかにガチガチに勃起した性器からは透明の液体が大量に溢れ、痙攣する度にそれが臍に当たる。
なんだ、なんだ、これは。汗が流れる。見開いた目を閉じることもできなかった。全身の神経が岩片の触れるそこに集まるみたいに、何も考えられなかった。唾液が垂れる。声を押し殺すこともできず、ただ、呑まれる。点滅する頭の中。俺は、性器にも触れられないまま呆気なく射精する。
射精感はない。
得体の知れないものが、まだ体の中でぐるぐると残っていた。
「……っ、このくらいでへばってんじゃねえよ。……慣れてるんだろ、ハジメ君」
顎を掴まれ、岩片の方を向かされる。
今、顔を見られたくなかった。
「……っ、はッ、……ぁ……っ」
「……なんつー顔してんだよ、お前」
「っ、や……み、るな……」
舌が回らない。声がちゃんと出てるのかもわからなくて、嫌だと動くが、構わず岩片は俺の後頭部を掴み、そして、唇を重ねる。
「っふ、……ぅ……ッ!」
唇を押し付けるようなキス。
何度も角度を変え、感触を味わうように唇を重ねられる。その間も指は引き抜かれるどころか執拗に責め立てられ、下腹部がガクガクと震えた。息が苦しくて、口を開いた時、舌が入ってくる。
「ぅ、ん゛ッ、ぅ、ふ……ッ!」
汗が、止まらない。汗だけではない、いつの間にかにもう既に甘勃ちしたそこは濁った液体が溢れ、断続的に訪れる快感の波に、呑まれそうになる。
何かにしがみつきたいのに、両腕の自由が効かないお陰でされるがままに体が揺れ、ベッドが軋む。
「っぅ、ぁ、あ、あッ……!」
唇が離れ、唇を舐められる。声を抑えたいのに、俺が口を閉じるよりも先に指先でえぐられ、開きっぱなしになったそこから唾液が垂れた。
それを啜ることも拭うこともできず、みっともない顔を隠すことも許されない。こちらを覗き込む岩片と目が合い、全身の熱が増す。嫌だ、と、見ないでくれ、と首を動かそうとすれば、頬を掴まれ、前を向かされた。
「……こっちを向け」
「いや、だ……ッ」
「ハジメ」
「……っ!」
名前を呼ばれた瞬間、無意識に下腹部に力がこもる。
それに気付いたのか、岩片の口元が緩む。そして、「ハジメ」ともう一度俺の名前を口にし、俺の腿を掴んだ。
「っ、待っ、いわ……」
かた、と続けるよりも先に、体の中、指が大きく曲がる。
指の腹が擦れる感触に堪らず仰け反ったとき、そのまま腰を捕まえ、岩片は三本目の指を挿入した。
「ぁ」と、目の前が真っ白になる。ずぷりと呆気なく飲み込む自分の体にも驚いたが、その次の瞬間、中の指が一斉に動き出した。バラバラの動きで内壁を、奥を激しく摩擦され、自分のものとは思えない声が出てしまう。
「はー……ッ、ぁ、あ゛……ッ、や、ぬッ、ひ……ッ、抜い……ッ、い゛、ぁ、いわ……ぁ……あ……ッ、ぁああ……ッ!!」
内臓をかき混ぜられてるような快感が全身に襲いかかる。声を抑えることができなかった。視界が揺れる。頬が濡れる。汗なのか涙かそれとも別のものなのか、それすらもわからずただみっともない自分の喘ぎ声が他人の声のように響くのだ。岩片は、そんな俺の、声を聞いてくれるはずもなく、それどころか指の動きは激しさを増すばかりで。
ガクガクと震える俺の腰が逃げないよう、掴む岩片の指は食い込む。汗が止まらない。岩片が指を動かす度にぐちゃぐちゃと耳障りな音が響き、勃起したそこが揺れる。頭が、おかしくなりそうだった。自分がどこにいるのかもわからなくて、目が回る。舌をしまう方法も考えられなかった。ただ、押し寄せてくる快感を受け入れることしかできなかった。
いきそう、いきたい、気持ちいい、頭が、馬鹿になる。
「んんぅ……ッ!!」
二度目の射精は、呆気ないものだった。大きく震えた体に、ガクガクと震える足腰、真っ白に塗りつぶされた頭は何も考えられることができない。
溢れた精液で濡れた腹部。暫く、息をうまくすることができなかった。放心する俺に、岩片は指を引き抜いた。にゅぷりと音を立て指を引き抜いた岩片は、ローションでどろどろに濡れた指を舐める。汚い、と思うよりも先に、目が合って、岩片は笑う。
「……ひでぇ顔だな」
「ここまで真っ赤だ」と、耳に触れられ体が恐ろしいほど震えた。連続で射精を迎えさせられたその指は恐怖でしかなかった。身を攀じるが、岩片はふっと笑うだけで。
息が乱れる。呼吸感覚も浅いまま戻らず、獣じみた呼吸しかできなかった。
「っ、やめ、ろ……ほんと……ッこれ、いじょ……は……」
「……元に戻れなくなる?」
そう、吐き出された岩片の言葉は熱で蕩けさせられた体に重く、冷たく響いた。
「なあ、ハジメ。俺は優しいから最後に一つだけ、聞いてやる」
「……お前、なんか俺に言うことあるんじゃねえの?」息を飲む俺に、岩片は続ける。熱の籠もったその目に見据えられるとじわりと熱が広がるようだった。鼓動が、加速する。
岩片に、言わなければならないこと。ない、わけがなかった。
「あるんだろ」そう促す声は、不気味なほど優しかった。
「っ、おれ……」
呂律が、回らない。自分がどんな顔をしてるのかも、わからない。ただ、岩片に言わなければならない。その一心で、痺れる舌を動かす。
「おれ……」
「……うん」
「……おれ……男としたことあるっていうのは、うそなんだ」
正確に言えば、未貫通である。なんで俺がこんなことを言わなければならないんだという気持ちが大きかったが、ここまできて岩片に勘違いされたままだと本当に後に引けなくなる。そう思って、本当のことを告げた。
恐らく、岩片もそれを望んでる、はず。
そう、続けようとしたときだった。
岩片は、深く息を吐いた。それは溜息にも、自身を落ち着かせるもののようにも捉えることができた。
そして、
「……んなことは、知ってんだよ……ッ!!」
何故だ。何故だろうか。先程まで幾分か和らいでいたはずの岩片の表情は、先程と同じくらい、いや、寧ろそれ以上の怒りが浮かんでいた。
「俺がんなしょーもない嘘信じると思ったのかよ? はぁ? てか何、俺のこと舐めてんの? 処女かそうじゃねえかくらい見りゃ分かんだろ、お前はどっからどう見ても処女だよ、ケツの穴で気持ちよくなったことねえ顔だよ」
「分かるか?」そうたくしまくる岩片に、俺はやつの言ってる言葉八割方わかんなかった。当たり前だ。分かりたくない。
けれど、「ここだよ、ここ」と、散々指で掻き混ぜられ嬲られたそこに指を突き立てられると、ぞくりと肩が震える。それを無視して、岩片は俺に顔を近づけた。
「ここに俺のチンポハメて俺がお前を女にしてやる」
そう言って、チンポの先端を人の肛門にグリグリ押し付ける岩片。熱く、厭に硬いその感触に声が震える。目がマジだ。
こいつ、まじでそこらへんのセクハラ親父の方がマシに見えるレベルの野郎だ。その上、本気だというのが分かるから厄介でしかない。
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