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 じゅるっと音を立て、溢れる己の唾液を啜る能義に青褪める。やつは濡れた口に弧を描き、微笑んだ。 「……本当、いい顔をしますね……っ、一人のものだけにしておくのは勿体無い」  何を言い返す気にもなれなかった。  ただ、思考が追いつかなくて、鈍る。肩で呼吸を繰り返すことしかできない俺に、能義はまるで恋人にするかのように口付けをしてくるのだ。  そこで、現実に引き戻される。 「ん゛ッ、ふ……ッ……ぅ……ッ」 「っ、は……尾張さん……っ、ん……駄目ですよ、ちゃんと、息しないと……っ」 「っ、……ッ!」  誰のせいだと、という恨み言は能義に唇を塞がれることで遮られる。  唇を深く貪られ、ねっとりと舌で咥内を舐め回された。  不快感の伴うそれに抵抗する術もなく、執拗な口づけを受け入れることしかできなかった。  能義は、俺から唇を離そうともせず、器用に片手でベルトを緩める。  視界に、嫌でも嫌なアングルで嫌なものが入り込み、血の気が引いた。逃げるにも、背後と正面の厄介な連中に抑え込まれた体はちょっとやそっとじゃ動けない。  目があって、能義は笑う。普段からの涼しげな上品な顔から想像できないほどの、蕩けきったその顔に覗き込まれた瞬間全身が反応する。  このままでは、本当に洒落にならない。  足をバタつかせようものにも、がっちりと股の間に腰を突っ込んでるやつに余計食い込むだけだった。  そして、やつは「そんなに急かさなくてもちゃんと最後までしますので」なんてアホみたいな顔でアホみたいなことを口にするのだ。  慣れた手付きで片手でバックルを外す能義。  五十嵐が待てとか言ったが、こいつは本当に助ける気があるのか。最早こいつの助けを待つこと自体が余計虚しくなる気がしてならない。  辺りを見渡す。心臓が煩い。焼けるように体が熱い。  それでも、ここでやつの好きになるつもりはなかった。 「こ、の……っ!」  ヤケクソだった。能義を押し退けようと思いっきりやつをぶん殴ってやろうと思うのに、振り上げた拳は届かない。それどころか、容易く受け流した能義は一層笑みを深くするばかりで。 「……いけませんよ、そんなはしたない格好をしては」 「それとも、誘ってるんですか?」足首を掴まれ、能義は人の足を肩に担ぐ。強制的に足を開かされるような、それもかなりの際どい体勢に、青褪めた。  筋肉に引っ張られ、無理矢理露出させられるそこに能義はなんの迷いもなく指を這わせ、濡れそぼった排泄器官でしか無いはずそこをねっとりと撫であげる。  その感触に、嫌でも反応してしまうのが悔しくて、息を殺す。唇を噛み締め、堪えた。 「っ、ゃ、め……」  声が、震える。  派手な下着の下、能義は隠そうともしないその膨らみからはち切れんばかりに勃起性器を取り出した。見るにも耐えれない。  他人のものを見たいとは思わないし、おまけにえげつないし、それをこれからこいつは挿入しようと思ってるのだと考えると恐ろしくて、到底受け入れることはできなくて。  息を飲む。体が震える。  それでもまだ、逃げ道を探してる。まな板の上のマグロだろうが、包丁で身を断たれるそのときまで諦めたくなかった。 「これから私が貴方の二番目の男です。……今、どういう気持ちですか?」 「……っ、クソ野郎……」 「おやおやおや、随分と情熱的ですねえ……いいですよ、やはり貴方はそうではなくては。」  でないと、犯し甲斐がない。そう、薄く形の整った唇は歪に歪んだ。  充てがわれる亀頭に、腰が震える。  昨夜の情景がフラッシュバックされ、無意識に身が竦んだ。能義は、俺の腰を高く持ち上げ、そして俺を見下ろして笑うのだ。 「目を反らすな」と、そういうかのように。  ……クソ、クソ、クソ、クソ……ッ!!  嫌だ、こんなくだらないことで、俺は、また……っ。  そう、考えただけでも悔しくて、歯痒くて、せめての抵抗代わりに目を瞑った。  その時、携帯の着信音が響いた。  聞き覚えのあるそれは俺のものだ。  そしてその瞬間、確かに能義の動きが止まった。  今だ、と頭の中で声が響く。考えるよりも先に体が動いた。  思いっきり能義の型に掛けた両足をやつの背でクロスさせるように、その細い首元を思いっきり腿で挟み込む。 「ぐ……ッ!」  流石の二人もこれは予想していなかったらしい。自分から他人の顔に密着するような真似、死んでもしたくない。けれど、今、この体勢で抵抗できることなど限られてる。 「っ、おい、尾張」 「随分と……積極的ではありませんか……!」  力いっぱい締め上げるほど、呼吸困難に陥るはずだ。  青く染まる能義の顔が、歪む。そして、楽しそうに笑い、躊躇なくやつは俺の腿を掴んだ。  そして、 「っ、ふ、ぅ……ッ!」  指が食い込むほど強い力で腿を掴まれ、能義は眼前の人の性器を掴んだ。その感触に、堪らずぎょっとする。苦しいはずのくせに、額に青筋を浮かべた能義はそのまま乱暴に性器を指で潰し、その強い痛みに似たそれに堪らず飛び上がりそうになる。  駄目だ、ここで拘束を緩めては。  そう思うのに、べろりと玉ごと舐められた瞬間、思考が飛びそうになった。 「やっ、く、ぅ……あ、ぁ……ッ!」  皮を吸われ、擽られ、腫れ上がった先端を指で潰され、逃げる腰を捕まえて執拗に嬲られる。  最も弱い場所を責め立てられ、声を殺すこともできなかった。 「ぁ゛ッ、ぐ、ひ……ッぃ……ッ!!」  先程までの丁寧なそれとは違う。食い込む歯に突き刺さる指。  唇で、舌で、指で乱暴に弄ばれ、自分のものとは思えない声が出た。  擦られ、尿道口を潰され、溢れるそれを潤滑油代わりに先端に塗り込み、更にグチャグチャに扱かれれば脳天から爪先に電流が走る。  馬鹿みたいに腰が痙攣し、射精することなく自分が絶頂を迎えたのはわかった。  緩めては駄目だ。やつの好きにさせては、いけない。  そう思うのに、四肢から力が抜け落ちる。 「……っ、は……ぁ……あ……ッ」  喉が、ひりついた。呼吸する度に閉じることもできぬ口から声が漏れ、汗が流れる。  何も考えられなかった。口を閉じることすら忘れ、激しい愛撫に耐えれず、早漏よろしくの絶頂の波に全て持ってかれて、文字通り放心する。  腿の締付けが緩んだ瞬間、能義は俺の腿に唇を寄せ、そしてビクビクと震えるそこに愛しそうに舌を這わせるのだ。 「……これくらいで、私が怯むとでも?」  見開かれた目に、額に浮かぶ血管、そして微かに滲む汗。怯むどころか、萎えるなんて言葉を知らないかのようにやつの性器はさっき以上に勃起していて。  血の気が引く。 「お前はこいつの喜ばせ方が上手いな」と五十嵐が呆れていたが、正直、笑えない。 「……そうですね、貴方がそのつもりならば私も応えないといけませんね」 「彩乃」と能義は五十嵐に目配せをする。  名前を呼ばれた五十嵐は少しだけ嫌そうな顔をして、それでも律儀に「なんだ」と応えた。 「尾張さんをしっかりと捕まえて下さい。……この状況で私から逃れると思わないように、しっかりと」  細められた目に冷ややかな色が滲む。  五十嵐の企みに気付いてるのかどうかはわからない。  背後の五十嵐は言葉を飲み、背後から抱き竦めるように俺を抱え込む。  呂律の回らない舌で、五十嵐、と名前を呼ぶが、やつは何も応えない。その代わり、開かれた腿を大きな掌で掴まれ、固定されれば血の気が引いた。 「っ、さわ……るな……っ」 「おや……その割にこちらは随分と物欲しそうですが」  五十嵐の手によって大きく開かされたそこに腰を擦り付け、能義は笑う。  勃起したその裏筋で擦られ、唾液やら何やらでどろどろに濡れたそこは耳障りな音を立てた。不快感を煽り立てるその音に、他人の肉の感触に、その熱に、息を飲む。 「っ……ッや、めろ、この……ッ」 「ふ、ふふ……どこまでその威勢が続くか見物ですねえ……っ」 「……ッ、ぁ……ッ?!」  ぐちゅりと、先走りで濡れた先端を押し付けられ、体が震えた。体の芯を直接撫でられるようなその奇妙な感覚に堪らず喉奥から声が漏れ、慌てて口を閉じたが、目の前の能義はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべるのだ。 「おや……そんなに驚かれて、どうかしましたか?……まだ、掠めただけではありませんか」 「……っクソ、が……ッ!」 「……口が悪いですねえ、そんなに……待ち遠しいんですか?」  これが、とわざと入らないようにその窄み周辺を先端部で撫でられ、あまりの不愉快さに視界が赤く染まる。顔が熱い。  五十嵐の拘束さえなければ殴ってやってるところだが、そうしたところでやつが喜ぶのが目に浮かぶので余計腹立つだけだ。 「……ッ」 「……今度はだんまりですか。ふふ、いいですよ……無駄な努力をするいじらしい貴方を見るのはとても唆られますからね」  濡れた先端を押し付けられ、いよいよ挿入されるのかと青褪めるが、一向に挿入時の痛みはこない。それどころか、全体を下腹部に擦り付けるように勃起した性器で摩擦され、腰が震えた。 「っ、ぅ……く……ッぅ……ッ」 「貴方の肌は柔らかくて……それでいて奥は引き締まり、硬い。……筋肉質な体も悪くないものですね。触れた箇所どこもが吸い付いてくる……」 「っ、ゃ、め……ッ、こ、んなこと、して……っ、バカじゃないのか……お前……ッ!」 「それを言うなら、……こんな馬鹿みたいなことをされて喜んでる貴方はなんでしょうかね……ッ!」  瞬間、能義の手が腰を掴んだ。左右に広げられたケツの穴に押し当てられたそれを拒む暇すらなかった。 「――ッ!!」  ほんの、一瞬のことだった。  体重を掛け、一気に奥まで突かれた瞬間、声にならない声が喉から溢れた。  呼吸が止まる。天井を向いた目は焦点を失い、視界、思考すらも、白く塗り潰される。焼けるような熱、それを伴った衝撃に、何も考えられなかった。 「……ッ、は……ッが……!!」  痛み、よりも、精神的なショックがデカすぎて何も考えられなかった。繋がった下腹部が視界に入り、血の気が引く。絶望にも似たそれに、俺は抵抗することも、反応することもできずにただ自分の下腹部を見て硬直していた。  汗が流れる。  岩片以外のやつに挿入された。  その事実は、ただでさえ致命傷を負わされていた俺のプライド諸々を木っ端微塵にするには充分の威力だった。  何も考えられなかった。  脳味噌が受け入れることを拒否していた。 「っ、……尾張さんの中は熱いですね……熱くて、甘くて……キツくて……っ、食われてしまいそうだ……」  吐息混じり、低く唸るように息を吐き出す能義の声が、腹の中でも響く。  認めたくなかった。誰か嘘だと言ってくれ、悪い夢だと……――。 「ッ、ぁ……ぐ……」  食い縛った歯の奥から声が漏れる。  夢じゃない、ケツに刺さるような痛みも、火傷しそうなほどの熱も、強引に内側からえぐられるような感覚も、どれも生々しいほどの現実だ。 「っ、おや、泣くほど……これを待ち望んでいたんですか?」  抜け、触るな、動くな。  そう言いたいのに、喉まで出しかけた言葉は腰を隙間なく密着させてくる能義によって遮られる。 「っ、く、ぅ……ッ、ぅ……ッ!」 「……っ、最高ですよ、尾張さん……っ貴方が呼吸する度に貴方の中が吸い付いてくる……っ、私達、相性抜群ではありませんかっ?」 「っ、ぅ、く……っそ……ッ!」  そんなわけあるか。  そう言い返したいのに、言葉にならない。  腰を更に密着させ、ピストンするわけでもなく深く繋がった状態で腰を動かされ、最奥を執拗に擦られれば頭の中は真っ白になる。  粘着質な水音が腹の奥でぐちゃぐちゃと混ざり合い、その熱を、鮮明な異物の感触を、意識せざるを得なかった。 「っ、ぅ、抜……っ、け……ッ!」 「……ッ、そんなに奥をグリグリされるのが好きなんですか? ……腰が揺れて、中まで痙攣してますよ……っ、ふふ、昨日まで処女だった方とは思えない好き者っぷりですね……?」 「っ、ぁ、ち……ッ、が、ぁ……や、うご……く、な……ッ!」  情けない声を出したくないのに、隙間なく挿入されたそれで奥を舐られれば出したくもない声が溢れ出す。  気持ち悪い他人の体温を嫌でも感じるこの体勢が嫌で、腰を引こうとするが能義は俺を抱き締めるように深く腰を押し付けてくるのだ。 「っ、はぁ……っ、イイ、イイですよ、尾張さん……っ」  逃げ場のないソファーの上、緩く腰を動かし始める能義に追い詰められる。  全身に汗がじっとりと滲み、内壁を摩擦される度にまるで自分の体ではないみたいに腰が震える。無意識に全身に力が入り、その都度能義は気持ち良さそうに顔を歪めた。 「っ、ぅ……ッふ、く……ッ」 「ふふ……貴方も、気持ちいいんですか?……腰が動いてますよ」 「っ、んな、わけ……っ」 「……なら、私の気のせいですかね?」  これは、と囁く能義にぐっと腰を抱き寄せられ、深く挿入された瞬間下腹部に痺れるような感覚が走り、自分の意志とは関係なく下半身が震えた。  違う、そんなわけない。そう言いたいのに、言葉が続かない。  少しでも油断したら間抜けな声が出てしまいそうで、堪らず唇を噛み締める。 「ッ、う、く」 「そうですか、これも気のせいだというなら……もっと良くしてあげなければ貴方に悪いですね」  その言葉が理解できなかった。ただ、やつの笑顔から嫌な予感はひしひしと伝わってきて。  なけなしの力で能義を押し返そうとしたときだ。  肩を掴まれ、抱き抱えられる。腰が浮いたかと思いきや、抱き起こされたその体重で再度隙間無く体が密着し、全身に電気が走るような感覚に襲われる。 「っ、ぁ……ッ?!」  能義の膝の上、向かい合うように抱き締められ、全身の血液が一気に熱くなる。  咄嗟に降りようとするが腰を押さえつけられ、己の体重のせいで更に奥を突き上げられた。瞬間、瞼の裏がチカチカと点滅し、毛穴という毛穴からぶわっと汗が吹き出す。 「っ、ふ、……ッく……ぅ……ッ!」  動こうとすればするほど中が擦れ、四肢から力が抜け落ちそうになる。背筋をいやらしく撫でられ、過敏になった体にはその刺激だけでも耐えられるものではなかった。 「……っ尾張さん、もっと声を聞かせてください。貴方の顔を、私に見せてください……岩片さんにも同じように可愛い反応を見せたんですか……っ?」 「っな、く……ッ、ふ……ッ、ぅ……んんぅ……っ!」 「……真っ赤ですね。ふふ、尾張さんは下から突き上げられる方が好きですか?」 「っ、ち、が……っ、ぅ……ッ」  ただ気持ち悪いだけだ、不快で堪らないし、苦しいし、おまけに、熱い。  臀部を撫で回され、人の反応を楽しむように腰を動かされる度に腹の中がぐちゃぐちゃになって、わけがわからなくなっていく。舌が回らない。  顔を撫でられ、汗で張り付く前髪を掻き上げられる。  瞬間、こちらを見下ろす能義と目があって、瞬間、胸の奥が一層騒がしくなった。 「っ、ぁ、やめ、……っみ、るな……ッ!」  言い終わるよりも先に突き上げられ、声が乱れる。額に、頬に、目尻にと唇を寄せ、能義は嗜虐的な笑みを浮かれるのだ。  瞬間。 「っ、ぅ、く……ッは、ぁ、い、やだ……やめッ! っ、ぁ、や、ッ……の、ぎ……ッ!」  口を閉じる暇もなかった。浮いた歯の奥から耳を塞ぎたくなるような自分の声が溢れ、血の気が引く。それでも構わず、下から突き上げてくる能義に俺は、ずり落ちそうになりながらもやつの制服を掴む。 「っ、は……尾張さん、またイキそうですか? ……いいですよ、最後まで付き合うと約束しましたもんね。……好きなだけイッて結構ですよ……ッ」  寝言は寝て言ってくれ。そう睨み返したいのに、焦点が定まらない。無意識に能義にしがみつく指先に力が入る。  指だけではない、射精の気配を感じた体が、呼吸が、乱れる。繋がった結合部から流れてくる能義の鼓動がやけに煩くて、嫌だ。嫌なのに、それを意識せざる得ないのだ。 「っ、ふ、ぅ……ぅ、く……ッ!」  ぐちゃぐちゃに絡み合った腹の中。  沈んだ腰を浮かすこともできないまま、どろりとした熱が性器から溢れ出す。射精感はない。持続的な刺激に嬲られ続けて火照った体では毒抜きにもならない。  射精したにも関わらず、勃起は収まらず、呼吸も乱れたままだ。全身を巡る熱は冷める気配すらなかった。  肩で呼吸を繰り返す。力が抜けそうになり、不覚にも能義に凭れかかるような形になったが能義はそれを押しのけることはなかった。それどころか。 「本当に、貴方という方は……私を煽るのが上手ですね」  項から後頭部を掌でなで上げられ、髪に唇を押し当てられる。ぞわぞわとした感覚が背筋に走り、慌てて起き上がろうとした瞬間だった。徐に尻を揉まれ、繋がったままの下腹部が震える。 「っ、や……っ!」  めろ、と続けるよりも先に、既に異物を飲み込んだそこを人差し指で更に広げられ、息を飲む。  もう片方の手で俺の腰を浮かせた能義は「彩乃」と、傍観していた五十嵐を呼ぶ。  ……待って、なんだ、すごい嫌な予感がする。 「……随分とお待たせしてすみませんねえ……、ちゃんと、貴方も入れるように解しておきましたよ」 「さあ、どうぞ」と、人のケツを押し広げる能義に血の気が引く。  理解できなかった。できることなら、したくもなかった。 「……その割には随分と楽しんでいたようだが?」 「……ええ、そうですね、本当は今すぐにでも出したいところなんですが……貴方が文句ありそうだったので」 「……配慮した結果これか、本当お前はどうかしてるぞ」 「おや、その割には乗り気ではありませんか。……好きでしょう、こういうの」  人を挟んで交わされる会話は到底聞き流せるようなものではない。  何言ってんだ、何を、考えてるんだ。  嫌な想像が視界を過る。咄嗟に能義の上から逃げようとするが、本当にこいつどこに力入れてんだってレベルでビクともしない。 「は、なせ……ッ」 「……ダメですよ、尾張さん。痛いのは嫌でしょう」 「……ッ! い、がらし……っ」 「………………」  お前人のこと助ける素振りを見せておいて結局それか?下半身直結野郎なのか?と目で訴えかければ、五十嵐は「悪いな」とベルトを緩める。 「……思いの外、ここに来た」  張り詰めた下腹部、どっからどう見ても勃起してるやつはやや不服そうに口にする。それを見て、更に血の気が引く。  こいつ、こいつら……本当に……!  お前らに理性とかそういうものはないのかとキレそうになるが、それもつかの間。無骨な五十嵐の手に腰を掴まれた途端、先程までの恐怖が色濃く浮かび上がる。 「……舌、噛むなよ」 「待て、ちょっ……待って、おい……冗談……っ」  背後から覆いかぶさってくる五十嵐に、汗が滲む。  この体勢は、というか、まだ能義が挿入してるんだが。  笑いない状況に『冗談だろ』と声を上げた瞬間だった。  既に能義のを飲み込んだそこに、別の肉質なそれを感じ、息が止まりそうになる。 「五十嵐、やめ、待っ……やめろ、やめろってば……っ」 「大丈夫ですよ、尾張さん。痛くて苦しいのは……最初だけなんで」 「――なッ……」  何を馬鹿なことを、と正面で愉しそうに笑う能義を睨もうとしたときだった。 「――~~ッ!!」  熱に、衝撃に、思考が飛ぶ。  眼球の奥が揺れるような、脳味噌に電気を流されたような、そんな衝撃に何も考えることができなかった。  痛み以上の、無理やり体を作り変えられるような衝撃と貫かれる圧迫感。 「……っ、キッツ……」  項に吹き掛かる息に、吐き出されるようなそのうめき声。  何も考えることができなかった。  二人がかりで抉じ開けられる下半身。その衝撃に耐えられるほど、俺の体は慣れていなければメンタルだって、正常でいられるわけがなかった。

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