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輝矢

「……はい、コレ。この前鑑識の連中が、もうすぐキミの誕生日だって騒いでたから」 そう言ってホンの少し目元を赤らめた輝矢が小さな包みを渡して来た。 「え?これ、…誕生日プレゼント、なのか?」 「見て分からない?…いらないならいいよ。返して」 まさか輝矢からプレゼントを貰えるとは思ってなかった俺は、驚いておかしな聞き方をしてしまった。 案の定、機嫌を損ねた輝矢が不機嫌そうに手を差し出してくる。 「いや、要ります!いただかせて頂きます!」 俺はその手を避けて、プレゼントを持った両手をバッと頭上に掲げる。 そんな俺を見て目を見開いた輝矢がフッと笑った。 「…変な日本語。あいかわらずキミ、変な人だね」 その笑顔にどきりとしてしまう。 (…前より、ずっと色んな表情するようになったよな。…かわいい) 俺が見惚れていると、今度は呆れた顔をする輝矢。 「…また人の事『可愛い』とか思ってる?…キミの方が余程可愛いよ」 目を細めイジの悪い笑みを浮かべた輝矢の顔が、目の前に迫る。 キスされる!? と、ギュッと目を瞑れば、至近距離でクスリと笑われた。 「…こんな所でしないよ」 ハッとして目を開くと、急に周りの喧騒が耳に入ってきた。 …そうだった。ここは社員食堂で端の方の席に座っているとは言え、周りに人もいるんだった。 一瞬でも忘れた自分が恥ずかしくて、つい照れ隠しをしてしまう。 「べ、別にライトがまぶしいと思っただけで、こんな所で……されるとか思ってないし」 「じゃあ、シたくないんだ?」 「シたいですっ」 「即答…」 またクスッと笑う輝矢。俺は手のひらの上で転がされているような気分になった。 「…なんか今日の輝矢くんは、イジワルじゃないですか?」 「うん。イジワルしてるからね」 「…なんで?」 「茨城が誕生日の事、教えてくれなかったから」 「……え?」 思いがけない答えに戸惑う、俺。 「…教えて……ませんでしたね」 「うん」 まっすぐに俺を見てくる輝矢の目がコワイ。…もしかしなくても、怒ってる? 「最初に言ったでしょ?鑑識の連中が騒いでたから知ったんだよ」 「………はい」 「ちゃんとリサーチしなかったボクも悪いけどね。お陰で恋人の誕生日に出張が入ってても、今更休みは取れないんだけど」 「……え?…輝矢、出張なのか?」 「うん。だから先にプレゼントを渡したんだよ」 貰ったプレゼントに目を落とし、誕生日の日に一緒に過ごせないという事実に、今更ながらにショックを受けた。 「…そっか、そうだよな…。悪かったな、気を使わせちまって。プレゼントもありがとうな。…出張、気をつけて行って来てくれ」 俺は顔を上げると、何とか作った笑顔でそう言った。 「…なんて顔、してるの」 「…別に、おかしな顔してねえだろ?」 「してる」 「………」 「あのさ、別にお祝いしないとは言ってないでしょ?」 「……え?」 「出張から戻ったら、すぐにキミの部屋に行く。…覚悟しておいてね」 不敵な笑みで俺を見つめてくる輝矢にドキリとする。 「か、覚悟ってなんだよ!ヘンな事言ってねえでマジメに出張行って来い!」 「当たり前でしょ?ボクは公私混同しないタイプだよ」 そう言って数日後、輝矢は出張に行ってしまった。 誕生日当日。 日付が替わる数分前に輝矢から俺チャにメッセージが入った。 『お誕生日おめでとう。来年は一緒に過ごそう。好きだよ』 俺は輝矢から貰ったシルバーのアクセサリーを握りしめ、幸せな気分で眠りについたのだった…。

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