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過去の話 全ての始まり
六歳の室井 清雅は、父親に連れられて市村家の庭園の中を歩いていた。
季節の花々が咲き誇る庭園は、室井家の庭園と比べれば敷地面積こそ狭いが、見劣りする事のない立派なものだった。
「小さいが美しい庭園だろう?植物が好きな奥方が手入れをしているそうだ。その奥方もこの花々に負けぬ美しい人だ。」
父親が言うならば本当の事なのだろうと思い、清雅は頷いた。
男の子の清雅にとって、花はそれほど魅力的なものではなかったが、それでも感心して見入るほど、庭園は細部まで手入れが行き届いていて見応えがあった。
市村家の邸宅に到着すれば、当主夫婦が出迎えてくれた。市村家当主は、神経質そうな感じの男だが、当主夫人は清雅の父が言う通り綺麗な人であった。
「市村様、ようこそいらっしゃいました。」
「息子も一緒で申し訳ない。君にはこの子と同じぐらいの息子がいただろう。その子と一緒に遊ばせてやってくれないか。」
市村家の当主が笑顔を貼り付けて父の応対をしているのを冷めた目で眺めていた清雅だが、父にそう言われ内心、嫌だと思いつつ頷く。
「清雅君の噂はよく耳にしますよ。とても六歳とは思えない、しっかりした子だと……それに比べてうちの翔は母親に似てしまって良いのは顔だけで……」
自分の息子と妻に対し、酷い事を言っている男に清雅は眉間に皺を寄せる。
しかし、翔という子供がこの当主ではなく夫人の方に似ているのならば会ってみたいと思った。
清雅は、夫人に子供部屋まで案内された。
そこには、一人で積み木を積み上げて遊ぶ男の子がいた。
「お母様!今、積み木でお城を作っていたんだ……この人は誰?」
男の子は振り返り、母親に向かって無邪気な笑顔で話しかけた。しかし、清雅と目が合うと少し緊張した顔をする。
「室井清雅と言います。翔くんの一つ上で六歳です。よろしくね。」
笑顔を作り、清雅は翔に向かって手を差し伸べる。翔は、可愛らしい顔でニッコリと笑いその手を握り返した。
カケル……清雅は、心の中でこの美しい男の子の名を呟いた。
この時、この子が欲しい……と清雅に子供らしくない欲望が芽生えた。
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