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陸上部3
「充希、こんにちは」
真悠はこの前と同じように綺麗な顔をこちらに向けて言った。
夜に見た時よりも日の下では顔の造りがよく見えて、本当に綺麗な男だと改めて充希は思った。
「名前…覚えててくれたんだ」
「もちろん、充希は?」
「真悠…」
まゆう、の発音に戸惑いながら辿々しく言う。
「充希も覚えててくれたんだ、嬉しい」
目尻を下げて嬉しそうに微笑む真悠はまた充希の手を握ってきた。ギュッと包まれた手から熱が伝わり、真悠の体温にドキドキと充希は心臓が動いた。ぼーっとして思わず固まってしまう。
「おい〜!初々しすぎか!」
独特な2人の間合いの感じに、見かねた遼がツッコミを入れてくる。遼が充希の背中をチョップで軽く叩いた。そこで我が戻ってきて、やめろよと充希も遼の背中に仕返ししてやった。
「そういえば充希は陸上部入らないの?」
「あ、うーん…入らないかも。今のところは帰宅部でいいかなって」
高校がスタートし、初めのテストで遅れを取るわけにはいかない。今の実力では絶対に医学部なんて無理だ。俺には陸上をやっている余裕なんてない。
「そっか…。てっきり充希も陸上部はいるかと思ってたんだけど…」
真悠は明らかに残念だと言う顔をした。
「やっぱり新歓だけでもこいよ、ミツキ〜」
「うーん……余裕があればね」
肩を掴んで揺らしてくる遼に苦笑いしながら曖昧な返事を返す。すると、昔から俺のことをよく知っている遼は、『ミツキ、全く来る気ないな…』とため息を漏らした。
話の間を読んだかのように、遠くから野太い声で2人を呼びつける声がする。項垂れてた遼が急いで顔を上げて、焦った顔をした。
「監督だ、ごめん言ってくるわ」
「うん大丈夫、俺も今から帰るよ。部活の様子見れてよかった」
「もっと話したいことあったのになあ…。
まあ、また誘うわ。また明日!」
手を上げて遼は走っていく。それに応えるよう充希も手を振った。一方でもう一人真悠は遼にはついていかず、じっと立ってこちらを見つめていた。
充希は首を傾げる。
「?」
「今日夜8時公園で」
「えっ」
その一言だけを言った真悠は返事も聞かず長い足を軽やかに動かして去っていってしまった。あっという間に遠くに行った後ろ姿に「今日も走るか…」と充希はぼんやり呟いた。
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