11 / 35

新歓1

「ごめん、ミツキ、陸上部の新歓こんなだったなんて知らなくて・・・」 「い、いいよ、別に。遼は悪くないよ」 「いや、こんなことだったら初めから誘わなかった・・・」 遼はがっくり項垂れた。 陸上部の新歓は近隣の女子高陸上部との合コンだったのだ。 カラオケ店の部屋には陸上部メンバー1年と白いブレザー制服を着た女子たちがいる。 それぞれ学年ごとに部屋を分かれており、2,3年達はこの部屋にはいなかった。そもそも陸上部ですらない充希は場違いであるのに、女子たちに囲まれるなんてどうしていいかわからない。遼も充希が女子とあまり接してこなかったのを知っているから充希のそばにいると言い張っているが、遼はいろんなところからいつものごとく引っ張りだこだ。充希は遼に、諦めて皆のもとへ行くよう促した。そもそも陸上部の新歓だ。陸上部じゃない俺に気を遣う必要はないのだ。遼はごめん!また後で戻ってくるから!と深く謝罪して、呼ばれた方へ向かった。充希は周りを見渡す。奥のほうで男たちで固まっているグループを見つけた。中学の知り合いも何人かいる。とりあえずそっちに行けばよいかと席を移動しようとした。 「充希、いた」 後ろから声がして、腕を掴まれる。声のほうに振り向けば真悠が立っていた。 「充希、探してた。あっちに座って喋ろ?」 ニコリと微笑まれ、真悠がそういえばいたなと充希は安心してついていく。 隅のソファに並んで座る。最もテレビから離れている場所でカラオケの中では一番静かな場所だ。 「充希、来てくれてありがとね」 「い、いや。こちらこそ?」 真悠はニコニコと笑顔をこちらに向けている。いつもより機嫌がよさそうだった。 それを見ていたのか少し派手めな女子がこちらに近づいてきた。 「すみませーん、ここ座ってもいいですか?」 俺たちの向かいのソファを指さす。いいえとも言えないのでどうぞと促すしかない。 顔はかわいい感じの着飾った女子が向かいに3人座った。女子がそれぞれ自己紹介をする。真悠もそれに愛想よく返した。充希も学校と学年と名前を言う。陸上部には所属してないからそこまで深くは自分のことを話さなかった。 「あ、飲み物とか頼みますか?」 一人の女子が気を利かせてドリンク表を差し出す。 「真悠君とか何飲みたいですか?」 女子は少し体を真悠に近づけて聞いた。すごい積極的な女の子だ。他の女子たちもそれに応戦するようにどれ飲む?私カルピスソーダがいいな!と入ってきた。少しビビる俺の横で真悠は「どれにしようかな…」とのんびり悩んでいる。 「充希は何飲みたい?どれが好き??」 急に真悠に話を振られてびっくりしてしまう。驚いて咄嗟に「オレンジジュース・・・」と返してしまった。 「オレンジジュースね。そしたら俺もオレンジジュースで」 「真悠君オレンジジュースにするの?それなら私も!」 「私も!」 結局この場の高校生5人全員がオレンジジュースを頼むという異様な事態になってしまった。さっきの子はカルピスがいいとか言ってたのに…なんだか申し訳ない気持ちになった。 それからも女子たちは積極的に話を振ってきてくれたが、肝心の真悠は曖昧な返事で返して充希にばかり話を振ってきた。 もちろん彼女たちは真悠と話をしたいということが充希にはわかってはいたが、それをどう彼女たちに話を回したらいいのかわからず困っていた。 そんなことをしている内に、真悠が充希に構ってなかなか自分たちと話さないことにしびれを切らしたのか、女子たちは他の男子たちのもとへ行ってしまった。とりあえずそれに充希は一安心したのもつかの間、他の女子たちがかわるがわる空いた席に現れた。しかし、新しく来た女子たちにも真悠は一切興味は見せず愛想よく適当な返事をするだけだった。真悠はただ充希との会話だけを楽しんでいる。そうやってつまんないと判断した女子たちは次々と席を外していくのだった。 さすがにこの状況は真悠にとっても陸上部にとってもまずい。 女子たちはピリピリしていたり、会話もせず並んでスマホをいじっている子もいる。部内でも一番の美形が一切こちらに興味を見せないし会話すらしてくれないのだ。女子たちは興ざめである。 (自分に気を遣っているから真悠は他とはなさないのではないか?) そう思った充希はトイレに行ってくると席を外した。

ともだちにシェアしよう!