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番外編「if未来編」
Twitterに載せていた大学生になった充希たちのお話です。本編とは関係ありませんが、本編にまだ出てきていないキャラ達が登場します。そのようなネタバレが嫌な方は読まないことをオススメします。
充希:大学生になった。
真悠:相変わらず充希のことは好き。
あきら:大学の同期で有名若手アスリート。俺様気質。
汰紀:充希と真悠の高校の後輩。充希の顔面が好きなB専。
ちなみに今回は遼は出てきません。
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今日は日曜日。充希と真悠はおそろいのマフラーで家の近くのモールに来ていた。
真悠が部活出来ている陸上用のウェアがこの前壊れてしまった。せっかくだから新しいのをと、真悠と充希はスポーツショップへ買い物しに来たのだ。
ここの店は大きくて取り揃えが良い。真悠や充希もそうだがたくさんの大人や子供が店を利用していた。そしてかくいう、彼もここを利用していた。
「お、真悠~!」
赤い髪を揺らした190に近い長身の男が真悠を呼んでいる。真悠はもともと目立ちやすいから目についたのだろう。こちらに手を振る彼のもとへ真悠と充希は近寄る。
赤い髪の男は真悠がこちらに来るのを確認すると同時に少し小柄な充希もそばにいることを見つけた。男は眉をきゅうっと寄せてあからさまに嫌そうな顔をした。
「は?またこのちんちくりんいんの?お前まじで何の用で来たんだよ」
顔と同様に明らかに不機嫌な声を出す赤髪男は充希に向かってそういった。充希はそれに少しむすっとする。真悠は充希の頭をなでながら男に向かって穏やかに言う。
「あきら、充希には俺がついてきてって言ったんだよ」
「はぁ?お前も大概趣味悪いよな」
「それはあきらに一番言われたくない」
真っ赤な髪を揺らしたあきらは「はぁなんでだよ」とふてぶてしく言っている。今日は部活もなく休みなのに、陸上部で着ているジャージをわざわざここに着てくるあきらの趣向も大概だ。スポーツ馬鹿という言葉が似合いそうな彼は、早くさっさと見ようぜと店内を歩きだした。
大学で知り合ったあきらは日本代表選手にもリスト入りされるぐらい陸上業界では有名な若手アスリートだ。彼は派手な髪色をしながらもそれがよく似合う綺麗な顔の持ち主で背も高く男性から女性まで人気がある。彼があのあきらだと気づいたのか、周りの客も少しざわついている。その隣で真悠はシューズやウェアの話をあきらと大学の時のように何気なく話していた。注目される環境でも真悠は決して動じない。一方、充希もそばで熱心なあきらの説明を聞いてはいたが、周りの視線にそわそわして集中できなかった。
ある程度説明し終えたのかあきらが一息ついて、周りを気にする充希に気づいた。
「お前、俺の話ちゃんと聞いてたか?」
「ま、まあ…」
「はぁ?この俺が、ありがたく話してやってんだからちゃんと聞けよ」
「す、すみません…」
押される圧に充希は逆らえずすぐ謝ってしまう。真悠は充希が謝らなくていいんだよと慰めてくれるが、人の話を集中して聞いていない自分が悪いため充希は頭が上がらない。そんな充希に真悠は苦笑しながら近くにあったウィンドブレーカーを手に取って、話題転換するように見せてきた。
「あ、充希俺今この二つで悩んでるんだけどどっちがいい?」
「おまえ…。真悠、こいつに聞かず自分で選べよ」
「メーカーは決めてるんだ、色を充希に選んでほしいだけだよ」
「だからって色もこいつに聞かなくていいだろ」
「いいじゃないか、充希は俺の恋人なんだから」
あきらの勢いに全く圧倒されることなく、ねと可愛らしく真悠は首をかしげて充希に言う。
真悠にそう言われた充希は従うしか選択肢は残っていない。赤とクリーム色のような白があって、充希は白のほうを指した。
「はぁ、趣味悪いかよてめー。赤のほうがかっこいいだろうが」
「む。真悠には白のほうが似合うよ」
「ほんと?じゃあ、白にしよう」
真悠は上機嫌に白のウィンドブレーカーをかごに入れた。その様子にあきらはマジで趣味わりぃと呟いていた。ぶつぶつと言いながらこちらを睨んでくるあきらに横目で充希が睨み返そうとしていると、大きな明るい声が響いた。
「あれ?!真悠さんじゃないっすか!」
「あ、タキ。久しぶり」
充希とあきらも振り返ると、高校の後輩である汰紀が制服姿で立っていた。
「タキ…」
充希も汰紀の姿を見てそうつぶやくと、汰紀は充希の存在に気づいて、凄まじい勢いでこちらへ近づいてきた。そのまま汰紀はまっすぐ突っ走って充希に後ろから抱き着く。シトラスの爽やかなにおいが彼から匂う。
「うわぁぁぁ!充希先輩じゃないっすか!!大学生充希先輩かわっ!!!!」
後ろから充希の肩へ汰紀はぐりぐりと顔をうずめる。抱きしめる力が強すぎて、充希はウッと声を漏らした。
「はぁ、まじで真悠さんと充希先輩に会えるなんて神か~。あ、充希先輩っ!久しぶりに抜きっこしましょ」
最後にハートをつけて鼻と鼻がくっつきそうな距離で汰紀は微笑む。公共の場でとんでもなセクハラ発言を言ってくる後輩に久々に充希はめまいがした。
「な、なんだこいつ」
「タキ、いい加減離れて」
突然の変態登場にさすがのあきらも驚いている。真悠はほのかに微笑んでいるが汰紀に冷たくそう言い放つ。
「久しぶりだからいいじゃないですか~」
そう不満を言いながらも、真悠には逆らおうとせず汰紀は大人しく充希から離れた。汰紀は高校の時も真悠の言うことは決して逆らわなかった。
唇を突き出してすねてるアピールをした汰紀は呆然としている赤髪男にやっと気づき、顔を見て驚いた。
「えっ!今生あきら?!」
「は、今更かよ」
名前を呼ばれたあきらは呆けていた顔からいつもの自信あふれる顔へ表情を取り戻した。鼻が自然と高くなって瞳も光を取り戻す。
「え!!まじ!?真悠さんの知り合いっすか!?うわぁ~二人ともさすがっすね!今生あきらめちゃくちゃかっけ~!!」
汰紀は興奮気味にあきらを見ながらべらべらと太鼓を押しまくる。それにあきらは乗せられ、どんどん調子づく。「だろ?今度アジア大会も行くからちゃんと中継見てろよ」と汰紀に宣伝までしだした。それに汰紀は元気にわかりました!と言ったが、作り笑いの顔をした。あの顔は見るつもりのない顔だ。基本的に汰紀は調子がいいだけで興味のないことやだるいことには一切関心を持たない。もう既にべらべらと話しているあきらに適当な相槌を打ち始めた。
「へぇ~。あ、そういえば充希先輩たちって大学どんな感じなんすか?忙しいんすか」
「あ、俺は大学だけなんだけど、真悠は陸上部もやってるから結構忙しいよ」
充希の返答を聞いたそうなんすか~と落ち込んだ顔を汰紀はした。充希には感情をはっきりと示してくれる汰紀はやっぱり充希にとって可愛かったし、後輩であった。
「充希先輩たち、卒業してから全く様子見にきてくんないから、さびしいんですよぉ~」
そういって隙あらばまた汰紀は充希に抱き着くが、真悠がペシッと汰紀の頭を軽く払い、汰紀はしぶしぶ離れた。
「まじこの関係性いまだに変わってないんすね」
「う、うん、まぁ…」
「タキ何か言った?」
「いえ!真悠さんと充希先輩めちゃ仲いいなぁ~って話っす」
ニコニコと笑顔でそういってくる汰紀に真悠は「はぁっ」と軽くため息をつくと、「まあ。また今度陸上部には顔を出すよ」と言った。汰紀はその返事に嬉しそうにありがとうございます!と尻尾を振った。
「汰紀せんぱーい!もうそろそろ行きますよー!」
遠くから汰紀の後輩なのだろうか、彼を呼ぶ若い声が聞こえた。汰紀は慌てた顔をして、それに今行く!と大きく返事をした。
「タキも先輩になったんだね…」
「そうっすよ!充希先輩もぜひ陸上部見に来てくださいね!てか絶対きてください!」
少し大人になった後輩はにこりと充希に向かって微笑む。充希はその笑顔にわかったと苦笑をこぼした。
「じゃあ、俺はそろそろ行きます!」
「うん、タキ気を付けて」
「アジア大会の試合見とけよ」
最後までそれを言うかと充希はあきらのほうを見たが、あきらはいたって真剣な顔をしている。あ、はいわかりましたーと汰紀は適当に返事をし、帰るかと思われたが、一旦充希の方へ寄った。
充希の耳元へ汰紀が小さく囁く。
「俺恋人もセフレもまだいないんで、充希先輩、俺のチンコ可愛がりに来てくださいね」
はっと充希は昔の感覚に戻され顔を引きつらせると、べろりと汰紀に耳たぶを舐められた。真悠の顔色が咄嗟に変わる。しかし、さすが陸上部エース、汰紀は真悠に締め上げられる前に店の外へと足早に逃げていってしまった。
「……充希明日講義終わったら、ひさびさに高校へいこうね」
「ま、真悠…」
充希は真悠の裾を引っ張る。なに?と笑った真悠の顔に充希は久々の「お仕置き」を覚悟した。
「俺もそういや会計してこようかな。充希、あきら待ってて」
笑っていない目を細めた笑顔で真悠はそういうと、レジへ一人向かっていってしまう。
充希は顔を青くしながら、そしてあきらはのんきに「おう」と返事した。
「お前なんて顔してんだ」
「真悠が…」
「あー怒ってんな」
他人事のように、いやあきらからすると他人事であるため、そう率直に呟いた。
「…お前もはっきり言わねえからあんなことになるんだぞ。お前のせいで真悠もずっとお前の面倒ばっかりみてやがる。これであいつの成績が落ちたらどうすんだよ」
「…」
充希はその言葉に黙り込んでしまう。真悠は昔から充希にすがるところがあり、充希はそれを拒めないでいた。しかし、完璧な彼にはそれが必要だったと思うし、自分がもし拒否してしまったらどうなるか、想像するだけでも怖かった。
未だ黙る充希にあきらは呆れた顔をした。
「だからてめぇのその態度には腹立つんだよ。黙ってりゃ話が済むとでも思ってんの?不満があるならてめぇの口で言え。そんなこともできないならすべて『はいはい』嫌な顔せず聞いとくんだな」
あきらはそう充希を見下ろした。充希はその言葉に怒りのような感情が湧き出た。
お前に今までの俺の何がわかる。俺と真悠の関係に何が、わかるっていうのか。
見下ろすあきらに歯向かうように充希は自然と顔をあげた。
充希のその燃える瞳の色にあきらは人知れずニタリと口端を吊り上げる。
「充希、おまたせ」
ふわりと優しくかつしっかりと背中から抱きこまれた。さらさらとした柔らかい髪の感触が充希の頬を撫で、自分と同じシャンプーのにおいが香る。
「あきらも待たせたね」
「おう」
あきらはいつものようなぶっきらぼうの表情に戻り、真悠に返事した。あきらは周りを見渡しながら突き放すように言う。
「さっさと帰ろうぜ、腹減った」
「そうだね。充希も帰ろう」
真悠は抱きこんでいた腕を充希の体から外し、優しく髪を撫でた。充希は大人しく真悠の顔を見上げると、真悠はただ感情の読めない顔でゆっくり微笑むだけだった。
真悠は充希に自信の手を滑らした。しかし、充希はその手を拒むことはしなかった。手を繋ぐことが今の俺たちにとっては当たり前なのだ。
手を引いて、引かれて、歩いてくる二人に「ほんと趣味わりぃな」とあきらは呆れた顔をした。
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