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エピローグ 新しい季節

「陽、おはよう。」  昇降口のところでちょうど会い、声をかけた。 「ん...。おはよ、咲夜。」  いつものように愛らしく、ふにゃりと陽が微笑む。  しかしその時、後ろから。  同じクラスのちょっと乱暴な男が、俺達の背中をバンと(はた)き、大声で言った。 「おはよう、陽っ!咲夜っ!」  相当驚いたのか、ビクッと思いっきり飛び上がる、陽の小さな体。  クラスメイトには聞こえないよう、こっそり小声で聞いた。 「...大丈夫?」  こくんと頷き、深呼吸をひとつして。  陽は大きな口を開け、豪快な笑顔を浮かべると、彼の方を振り返った。 「おぅ、おはよっ!  ...|痛《いて》ぇよ、バーカ。  ちょっとは力加減、しろよなっ!」  猫っ被りならぬ、ライオン被り。  ...或いはライオンの皮を被った、子猫?  俺はそんな陽の姿に思わず噴き出しそうになったけれど、軽く小突かれて何とか|堪《こら》えた。  ふわりと風が舞い、光を浴びた陽の髪が金色に輝き、揺れる。  窓から入ってくる空気はひんやり冷たくて、木々達は緑から黄金色へと、衣替えを始めている。  もうすぐ夏が終わり、秋が来る。                                  【...fin】

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