30 / 30
エピローグ 新しい季節
「陽、おはよう。」
昇降口のところでちょうど会い、声をかけた。
「ん...。おはよ、咲夜。」
いつものように愛らしく、ふにゃりと陽が微笑む。
しかしその時、後ろから。
同じクラスのちょっと乱暴な男が、俺達の背中をバンと叩 き、大声で言った。
「おはよう、陽っ!咲夜っ!」
相当驚いたのか、ビクッと思いっきり飛び上がる、陽の小さな体。
クラスメイトには聞こえないよう、こっそり小声で聞いた。
「...大丈夫?」
こくんと頷き、深呼吸をひとつして。
陽は大きな口を開け、豪快な笑顔を浮かべると、彼の方を振り返った。
「おぅ、おはよっ!
...|痛《いて》ぇよ、バーカ。
ちょっとは力加減、しろよなっ!」
猫っ被りならぬ、ライオン被り。
...或いはライオンの皮を被った、子猫?
俺はそんな陽の姿に思わず噴き出しそうになったけれど、軽く小突かれて何とか|堪《こら》えた。
ふわりと風が舞い、光を浴びた陽の髪が金色に輝き、揺れる。
窓から入ってくる空気はひんやり冷たくて、木々達は緑から黄金色へと、衣替えを始めている。
もうすぐ夏が終わり、秋が来る。
【...fin】
ともだちにシェアしよう!