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片翼の天使⑤

 一番奥まで入れた状態で、今度は動きを止めた。 「これが、俺の形。  ちゃんと、覚えてた?」  耳元で囁くみたいにして聞きながら、胸の先端に指を伸ばし、何度も軽く弾く。  すると陽の内側は、甘えるみたいに、ねだるみたいに優しく俺を締め付けた。 「...返事は?陽。」  少し強めに胸の先端を摘まむと、陽はまた達してしまったのか、大きく震えた。 「これでも、逝くんだ?  ...ドM。」  言葉で嬲りながら、耳朶を優しく食むと、陽は小さな声で答えた。 「覚えて...たっ!  だからもう、意地悪しないでっ!」  その言葉に満足し、俺はクスリと笑ってそのまままた激しい律動を再開させた。  ガツガツと乱暴に、本能に従い腰を突き動かす。  すると陽も、もう駄目、無理だと必死に訴えていた癖に、それに呼応するみたいにいやらしく肢体を揺らした。 「...この体も、心も、全部俺のもんだから。」  背後から強く抱き締め、再奥を抉った状態で、背中にまたキスをひとつ落として。  ...そしてもう意識が朦朧として、焦点の合わなくなった陽の中に、すべてを吐き出した。 ***  行為が終わり、身支度を整えながら。  ずっと疑問に思っていた事を、口にした。 「そう言えば陽に、聞き忘れてた。  ...なんでこんなに遠くから、わざわざあそこに通ってるんだ?」  陽はクスクスと笑って、それから言った。 「出来るだけ遠い場所で、新しい自分に生まれ変わりたかった。  ...世界を、変えたかったんだ。」  家から近いから、なんていうふざけた理由だけであそこを受験した俺とは、完全に真逆。  だけどなるほど、と合点がいった気がした。  ...だから性格を偽り、全てを隠したままだったのか。 「とは言え両親から、家から通える範囲でって言う条件は付けられちゃったけどね。」 「...そっか。  それで世界は、変わった?」  クスリとと笑って、キスをして。  その細い体を抱き締め直し、聞いた。 「灰色だったのがカラフルな、キラキラの世界に変わったよ。  ...だってまた、咲夜に逢えたんだもん!」  ニッ、と大きな口を開け、陽が笑った。  そんな陽の表情に、一瞬だけ見惚れた。  そしてここでまた、ひとつの真実に思い至る。  本人ですらも気付いてはいないのかも知れないけれど、学校等で見てきた陽も偽物なんかではなく、大好きな彼の一部分だったのだと。 「それにね、咲夜。  ...咲夜は僕の、ヒーローなんだ。  一緒にいた時も、居なくなってしまったその後までも、ずっと僕の心を支えてくれた。」  そう言うとベッドサイドに手を伸ばし、ライオンのぬいぐるみの頭を優しく撫でながら、無垢な笑みを浮かべた。  まだこんなのを大切に持っていてくれたのかと思うと、自然と頬が緩む。 「...だから僕にとって最強なのはライオンじゃなく、咲夜だよ。」  今度はふにゃりと、陽が笑う。  油断していたところでいきなりそんな事を言われ、更にそんな笑顔を見せられた俺はきっと、格好悪いほど全身真っ赤に染まっていると思う。  だからこの情けない姿を見せたくなくて、陽をぎゅっと強く胸に抱いた。 「ちょっ...、咲夜っ!?どうしたのっ!?  苦しい、苦しいってばっ!」  俺の腕の中、陽がじたばたと暴れる。  でも俺は力を緩める事なく、コイツを抱いたまま小さく呟いた。 「俺の世界を変えたのは、間違いなくお前だから。  ...大好きだよ、陽。」  陽は自身の騒ぐ声で、それは聞こえてはいないみたいだったけれど。 「...うるせぇ、黙れ。」  今度はちゃんと耳に届くよう言い、彼を抱き締める腕に、更に力を込めた。  そして俺は黙らせる為、コイツの唇を自身のそれで塞いだ。

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