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「どこへ行く」
「え?」
それは、帰ろうとした遥人が靴を履いている時の事だった。
背後から掛けられた声に、内心少し驚きはしたが、決して危険なものではないと分かっているから振り返る。
「どこって……家に帰ります」
「おまえ、それ、本気で言ってるのか?」
いつも無表情な大雅の顔が、呆れたような色を見せたから、悪い事をしているような気持ちになってしまうけど……もう体も大丈夫だし、他に帰る場所も無いからそうするのだと遥人が答えれば、今度は眉間に皺を寄せた。
「それに、通帳……取りに行かないと、制服のお金返せないから」
「そんなのはいいから……来い」
立ち竦む遥人の目の前で、下駄箱から取り出した靴を履いた大雅が告げてくる。しかも、遥人の答えを待つこともせず、そのまま歩きだしたから……有無を言わせぬその雰囲気に飲まれて声が出せなくなった。
元々、あまり会話が得意じゃないから、どうすればいいかわからない。
とりあえず、大雅を追って玄関から外へと出ると、庭園のように整えられた木々の緑が目に飛び込む。その中を縫うようにして造られた道を歩いていくと、先を歩く彼の前方に校門が見えてきた。
だいたいの生徒は車専用のロータリーを使うから、登下校にこの道を使う生徒は限定されている。
――いったい、どこに行くんだろう?
大きな背中を追いかけながらも遥人が思考を巡らせていると、突然大雅がその足を止め、チラリとこちらを振り返った。
「あっ……」
そこで、ようやく彼へと追いつくことの出来た遥人だが、同時に視界へ入った人物に思わず声を上げてしまう。
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