23 / 338

20

キッチンも備え付けられていて、そこで食事まで作ってくれる大雅に恐縮しきりだったが、当の本人は『気にするな』と、無表情に答えるだけで、それ以上なにも語らない。 そんな調子で、会話らしい会話もほとんど無いまま時が過ぎていき、遥人の体の傷が癒えたころ、『明日から学校だ』と、新しい制服を差し出しながら言われたものだから、遥人はどうしてこんなことまでしてくれるのかと尋ねたけれど、やはり大雅は何も答えず、 『もう寝ろ』と短く告げたあと、遥人の髪の毛をクシャクシャと撫でた。 今日学校へくる時も、離れの部屋を出たところで、目隠しをされてしまった挙げ句、車に乗せられてしまったから、彼の家がどこにあるのかも遥人には分からない。 それから、近くの路地で車から降ろされ、鞄もその時渡された。大雅の指示に従う形で別々に歩いて登校したが、分からないことの連続に……どうすればいいか分からなくなる。  ――とりあえず、お金はすぐに返さないと。 少しの間耽っていたが、悩んでばかりもいられないから、遥人は目下のことに目を向け、それを考えることにした。 まず、病院代と制服代を大雅に返さなければならない。そのためには、酷いことが起こった場所へと帰らなければならなくて、そのことを考えるだけで、背筋を冷たいものが走った。 本当は……あんな場所へは2度と足を踏み入れたくない。だが、他に行き場所なんて無いから、怖いだなんて言ってられないと遥人は自分に言い聞かせ、掌を強く握りしめた。

ともだちにシェアしよう!