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髪を梳かれる感触が心地よくてたまらない。こんな風に撫でられるのは、いつ以来の事だろう?
「ん……」
「きもちいい?」
まだ朦朧とはしていたものの、夢から覚めた遥人が小さく喉を鳴らして身じろぐと、すぐ頭上から声が聞こえ、それが誰のものかを理解した途端、体が細かく震えはじめた。
「起きたみたいだね」
安堵の響きを帯びた声。
他の誰が聞いたとしても、“優しい”としか感じないであろうその声から、発作的に逃げなければと考えたのは、仕方のない事だと思う。
だから、目を開く勇気もないまま、遥人は体を翻そうとするけれど、そんな行動を見透かしたかのように咽を掴まれた。
「ぐ……んうっ」
「まだ動いちゃダメだよ。さっき倒れたばかりなんだから」
苦しさのあまり遥人が喘ぐと、加えられていた圧が弱まり、柔らかな声が降りてくる。
恐る恐る瞼を開けば、予想したとおり秀麗な顔が覗き込むようにこちらを見ていた。
「あ……」
「おはよう」
爽やかな笑みを浮かべた玲に額へとキスを落とされて……驚いた遥人が目を見開くと、今度は頬へとキスをした彼が喉を鳴らしてクスクスと笑う。
どうやら、ソファーへと座る彼の膝に頭を乗せて寝ていたらしく、ここがどこかは分からないけれど、高い天井と広い室内、壁に飾られた絵画から、知っている場所じゃないことだけは戸惑う遥人にも理解できた。
「あの……ここは、どこですか?」
「震えてる。熱も上がってきたみたいだ。寒くない?」
遥人からの質問は、ものの見事に無視される。
代わりに玲からされた質問に「少しだけ寒い」と返事をすれば、頷いた彼はようやく首から掌を離し、そうすることが当然みたいに遥人が着ているシャツのボタンを外し始めた。
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