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 *** 『たすけて……たすけ……』 深くて暗い闇の中、一人ポツリと蹲っている少年の姿が浮かび上がる。 『あれは誰の子なんだ?』 『あの子は……間違いなく明弘さんの子よ』 『嘘を()くな。きちんと話せばお前の親への融資を再開してやってもいい。それなりの手切れ金だって用意してやる。悪い話じゃないだろう?』 『私はきちんと話していますし、明弘さんもあの子が実子だと認めてます。養育費もいらないって言ってるのに、何故そこまでこだわるんですか? それに、あなたが望む返事をしたところで、融資の再開なんてしては貰えないでしょう? ご存知かと思いますが、離婚したあとの融資の打ち切りで親の会社はすでに倒産して――』 姿はまるで見えないけれど、話す声だけは明瞭に聞こえ、その片方が自分の母だということだけははっきり分かった。  ――これは、夢? 状況から考えると、どうやら夢に違いない。そうでなければ姿が見えないなんてことはあり得ない。 それに、今目の前にいる少年は、幼い自分自身だから、夢以外の選択肢は遥人の頭に浮かばなかった。 『ねえ、そんなところで何してるの?』 諍いの声に耳を塞ぎ、蹲っている小さな自分へ手を伸ばそうとした途端、子供の声が辺りに響いて急に視界が明るくなる。

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