53 / 338
7
「誰かいるのか?」
聞き覚えのある低い声音に一瞬頭が白くなる。相手が誰かを考えるだけの余裕はまるで残っていないから、遥人は迷わず目の前に立つ男の制服を、縋るように両手で掴んだ。
「こんなとこで何をしてる。保健室に行ったんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど、御園君がここに入るって聞かなくて……熱のせいでだいぶ錯乱してるみたい。どうしようか焦ってたから、来てくれて助かったよ」
「あ……あ」
「確かに熱いな。すぐ保健室へ運んだ方がいい」
額へと触れる冷えた掌につられて遥人が顔を上げれば、少しだけ眉根を寄せた大雅がこちらを見下ろしている。
「一緒に行ってくれるかな?」
背後から響く堀田の言葉に遥人が体を強張らせると、大雅はふらつく体を引き寄せ「俺がいくからいい」と答えた。
「そう。なら、あとはお願いしようかな」
あっさりと引いた堀田の声に、強い違和感を覚えるけれど、今の遥人にはその正体を見極めるだけの余力がない。
「大丈夫か?」
「んっ……うぅ」
労るような大雅の問いかけに安堵したのも束の間のことで、今度は腰へと回された腕に体が反応してしまい……遥人は咄嗟にこの空間から逃げだそうとして体を捩るが、刹那首筋へと衝撃が走り、どうにか保っていた意識は一瞬にして闇へと落ちた。
ともだちにシェアしよう!