73 / 338
27
そこからは、夢の中にでもいるみたいに現実味のない時間となる。
動かせなくなった体を大雅に担ぎ上げられた時には、流石に微かな抵抗をしたが、そんな行動は軽く無視されてエレベーターで下へ運ばれた。
閉まる扉の向こう側に堀田の姿が見えた気がするが、彼がどんな表情をしていたかはっきりとは覚えていない。
きっと、自分自身が思っているよりかなり混乱したのだろう……汚いから降ろして欲しいと大雅に訴えようとしても、まるで出し方を忘れたみたいに言葉が声にならなかった。
そして――。
「一人じゃムリだろ?」
今、遥人が置かれているのも嘘みたいな状況だ。
「ごめんなさい……あとは、一人でできますから……」
マンションから外へ出た途端、横付けされた車に乗せられ、シーツのような大きな布で体をぐるぐる巻きにされた。
『少しの間だから我慢しろ』
そう言い放った大雅の声に、遥人は体を硬くしたけれど、移動している間中、ずっと背中を擦ってくれたから怖いなどとは感じなかった。
目的地へ到着してから再び体を持ち運ばれ、ようやく視界が開けたのが、この浴室の中となる。
ともだちにシェアしよう!