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 この一年で遥人は変わった。  週末ごとに玲と会い、一緒に過ごしていくなかで、できる限り彼の希望を受け入れたいと考えるようになっていた。  玲が遥人を縛りたいと言い出せばそれに従ったし、下生えを剃りたいなどと言われても、恥ずかしいけれど承諾した。  今ではそれが遥人自身の望みであり、玲もまた……彼なりにではあるものの、遥人の気持ちを優先しようと思ってくれているのが分かる。  玲が自分に(いだ)く欲情はいびつなものだと分かっているが、受け入れ求めてしまう自分も、きっとどこかが(ゆが)んでしまっているのだろう。 「まだ大雅と会いたいと思う?」  時折……試すかのようにそう訊ねてくる玲の言葉を遮るために、遥人は自ら彼の唇へ自身のそれをそっと重ねる。  会いたいか? と問われても、自分から会う資格はない。ただ、今後大雅と偶然どこかで会えたなら、礼を告げたいと思っていた。  大雅が遥人へ向けていた情は憐憫(れんびん)であり、遥人が彼に抱いていたのは憧憬に近い感情だ。そこに恋慕の情は無かったと、今ならばはっきりと言える。 「ん……ふぅっ」  長いキスの主導権はすぐに玲へと移ってしまい、口腔内をくまなく舌で愛撫されるうち、遥人の肌が薄紅色に染まっていく。 「やっと、手に入れた」  ようやく解放された時、玲が小さく呟いた声は淫靡な艶を纏っており、鎖骨辺りへ軽く犬歯を立てられただけで、見えない鎖が体中に巻き付いたような錯覚へと陥るが……以前のように怖いなどとは思わなかった。 「俺のだ」  高校生の頃から今にいたるまで、玲の執着と独占欲は変わらない。むしろ、大きくなっているような気がする。  変わったのは、目を背けずに遥人がそれを享受していることだ。玲への依存を深めている自覚はあるが、今の遥人はそれでもいいと思っていた。  これが、何年もの時間をかけ、ようやく二人で辿り着いた関係のはじまりなのだから。 「玲が……好き」  広い背中を抱きしめて、遥人は愛の言葉を紡ぐ。   すると、額へとキスを落とした玲が、綺麗な笑みを遥人に向け「俺も愛してる」と、蕩けるような甘い声音で囁いた。 END 長い間、本当にありがとうございました。 次ページから番外編で大雅の話をあげていくつもりです。そちらも読んで頂けたらうれしいです。 小此木雪花

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