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第1話
それはまるで闇そのものだった。
激しい雨の中で傘を差して歩いていた俺は、道端に転がっているそれに気づかずに、危うく転びかけた。目線を動かしそこにある物を確認する。
雨に打たれ、全身ずぶ濡れのそれは若い男だった。無視して通り過ぎようかとも思ったが、何の気まぐれか俺は男に声をかけた。
「おい、生きてるか」
屈みこんで男の顔を覗く。そこにあったのは人形のように整った美貌だった。苦しいのか荒く息をつく。身体は小刻みに震え、今にも死んでしまいそうだった。
「病院行くか? 救急車呼ぶぞ」
俺の病院は時間外の診察は請け負ってない。だが近くの夜間病院なら大丈夫だろう。この状態で男を放置するのは、医師としてのプライドが許さなかった。
「……放っておいてください」
男が消え入りそうな声で答えた。
「このまま見過ごすわけにはいかない。俺は医者だ」
「医者……?」
「ああ」
「……」
急に男が動かなくなった。俺は慌てて呼吸を確かめる。まだ息はある。俺は傘を閉じ、その闇のような男を自宅へ連れ帰るべく、背負った。男の身体は驚くほど細く、軽かった。
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