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第16話 エドワード②

 私は時折、吸血衝動に駆られる。そういうバケモノだから仕方ないが、私はこの醜い姿をどうしても彼に見せたくなかった。  私はしばらく彼と距離を置くことにした。だが世話焼きのエドワードは、毎日のように私の元を訪ね「生きてるか」と声をかける。  私は次第に衝動を抑えることが難しくなった。ひどい眩暈に苛まれ、口数も減っていく。それでもエドワードの訪問は続いた。  そして悲劇は起きた。  気づいたら私はエドワードの首筋に牙を立て、その血を啜っていた。 「……セルジュ?」 「エドっ!」  エドワードの発する声に我を取り戻した私は、思わず彼を突き飛ばした。私は取り返しのつかないことをしてしまった。 「エド! エドワード!」  彼を抱え、傷を確かめる。まだ息はある。早く処置すれば……。 「セルジュ……」  エドワードが私を見て微笑む。 「生きてるか……セルジュ……」 「エド……ごめん……私は……」 「……お前に涙は似合わない」 「え……」  私は泣いていた。こんなときでも彼は私の心配をするのか……? 「……セルジュ、俺の血を全部飲んでくれ」 「そんなことできない! これ以上、あなたを傷つけたくない!」 「違うよセルジュ……」  彼の手が、私の涙を拭う。 「……俺は血として、お前の中で生き続けてやるよ」 「!」 「ずっと一緒にいよう……」 「……わかったよエドワード」  私は彼の望みを叶えることにした。 「だから……泣くなって言ってるだろ」  エドワードは笑いながら、また私の涙を拭う。 「愛してるよセルジュ……これからも……一緒にいよう」 「私も愛しています、エドワード」  彼を抱き締め、牙をあてがう。このぬくもりを味わえるのは、今日が最期だ。私の想いに答えるように、彼もまた私の背に腕をまわす。 「……いつの日か、また……」  エドワードは最期の瞬間まで笑っていた。  私は見晴らしの良い場所に墓を作り、花を手向けると、その土地を後にした。

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