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第3話 ②
アパートから一番近いコンビニに入ると、クリスマスケーキを宣伝する棚が目に飛び込んできた。
クリスマスだからといって何をするわけでもないが、ケーキだけは亮次が毎年買ってきている。
特に甘いものが好きというわけではないのに、快が彼の元へ引き取られてから、ずっと。
事務所に用意されているのは、おそらくビールや日本酒ばかりだ。
何か飲みやすいものも買っておこうと、チューハイの缶を三本ほど手に取って振り返った。すると近くにいた二人組の女子高生の目が、少し離れた場所にいる悠利に向いていることに気づく。
彼女たちだけではない。スーツ姿の男性も、レジにいる店員も悠利を見ている。
(ほんと、どこにいても注目の的だな)
それなりに背も高くて、細身で色白、そのうえ顔立ちも整っているとなれば視線を集めるのも当然だ。だがここまでもてるとつい心配に……
(……ん? 心配ってなんだ?)
自分の思考に疑問を感じて、快は手元の缶に視線を落とした。
もてることの何が心配だというのだろう。
注目を集めればその分彼を狙っている人間に見つかりやすいという面はあるかもしれないが、それは今思ったことで、つまりは後付けだ。
ならなぜさっきは心配だなんて。
「快」
「うわっ」
思わずびくっとしてしまい、持っていた缶を落としそうになった。
先ほどまで別の場所にいたはずの悠利が、いつの間にか目の前にいる。
「どうした」
「や、別に何でも……」
ふと視線を落とした先に、悠利の持っている買い物かごがあった。シュークリームやケーキなど、甘そうなデザートばかりが入っている。
「見事に甘いものばっかだな」
「好きなものを買っていいのだろう」
「そうだけど」
かごの中を見ているだけで口が甘くなってくる。
「なんかコーヒーほしくなるな」
「ここで買わなくてもインスタントなら事務所に」
「わかってるけど、そうじゃなくて。お前だってこれだけ甘いもん食ったらコーヒーとか飲みたくなるだろ」
「砂糖とミルクがあればな」
それでいつの間にか事務所に砂糖とミルクが置いてあるようになったのかと、今さらながらに納得する。
どうやら彼は根っからの甘党らしい。
会計を済ませてコンビニを出ると、外はすっかり暗くなっていた。冷たく吹きつけてきた風に、快は思わずコートの前をしっかりと閉めた。
「なんかますます日が短くなったよな」
「ああ。厄介だ」
「厄介?」
「暗くなるのが早くなると危険な時間帯が増すことになる」
「お前はどうしてもそういう方向に話がいくんだな」
だが悠利が以前に暮らしていたアパートから戻ってきて以来、平和な日々が続いている。こうして二人で歩いていても怪しい気配はまるで感じない。
悠利が狙われていることなど忘れて普通に過ごしてしまいそうになるが、本人はきっとそうはいかない。
「今も周りが気になったりするのか?」
「全く気にならないといえば嘘になる」
まあそうだろうなと快が納得したあとで、だが、と悠利が付け加える。
「外に出たくないという気持ちはだいぶなくなった」
快はふと、彼が前に住んでいたアパートの部屋を思い出した。あの何もない殺風景な部屋で、彼は一人、何を思って過ごしていたのだろう。
今は、どこへ行くにも快が悠利と一緒にいる。
悠利を守ってやってくれと、亮次からそう頼まれたことから始まった共同生活だが、今となっては彼が隣を歩いていることが当たり前になっている。
最近、ふと思う。
いつかもし悠利の抱えている問題が解決して彼が狙われることがなくなったら、この毎日はどう変わるのだろうかと。
こうしてともに行動することもなくなるのだろうか。
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