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第4話 ②

 レイナとミユウを降ろしたあとの車内が無言なのはいつものなのに、悠利は何か気にかかったようだった。 「あまり夜更かしはするなよ」 「なんだよ急に。ていうかすでにかなり夜更かししてるけど」 「お前のことだ。亮次さんが帰るまで寝そうにない気がしてな」  彼といい実華子といい、そんなに亮次のことを気にしているように見えるのだろうか。 「いや。すぐ寝るよ」  いつも通り、帰ったらすぐに風呂に入ってベッドに寝転がるつもりでいる。  ただ、眠くはない。おかげで眠気に襲われず安全運転できているが、そういうところを見抜かれて心配させているのかもしれない。  アパートに戻ってもやはり事務所に明かりはついていなかったが、代わりにアパートの前に一人の男が立っていた。  快と悠利がそれに気づいたのは車から降りたあとだった。先に気づいていれば、降りていなかったかもしれない。 「やあ。お疲れさん」  親しげに声をかけてきたのはユキムラだった。 「お前、何でここに」 「もちろん調べてきたんだよ。なんたって俺は探偵として雇われている身だからね」  それを聞いた悠利がはっと気づく。 「まさか誠二郎さんが雇っている探偵というのは」 「さすが悠利、察しがいいね。まあそういうことだから、俺の聞きたいことが何なのかわかるよね」  寒いはずの夜にコートを着ずに立っているユキムラは、余裕の笑みを浮かべて二人を見つめてくる。 「箱のことなら何度聞いても同じだ。俺は知らない」 「うん、悠利のほうはとりあえずそういうことにしておくよ。というわけで、あんただよ榎本快」 「俺?」  聞き返したあとで、快は思い出した。ユキムラを雇っているという誠二郎と一緒に住んでいる朋希が、快と亮次が箱のありかを知っているのではと疑っていたことを。 「で、知ってるの? 箱の場所」 「知ってるわけねえだろ」  きっぱりと快が言うと、ユキムラは意外にも素直に頷いた。 「そうだね、確かにそうっぽいや。あんた、嘘つくの下手そうだし」 「ならもう俺らに用はないよな」 「いいや、まだだね。だけど悠利を巻き込むと怒る人がいるから、ちょっとどっかに行っててもらおうかな」  その言葉を合図のように、背後から現れて悠利の腕をつかんだのは朋希だった。 「! 悠利っ……」  朋希とともに悠利の姿が目の前から消えて、とっさに伸ばした快の手は空を掻く。  しまった。ユキムラばかりに気を取られて油断していた。 「あいつをどこにやった」 「さあね、俺は知らないよ。誰かを連れての空間移動はどこに飛ぶかわからないって、あんたも知ってるはずでしょ」  もちろん知っている。移動する先を指定できないことも、遠くへ行くことはできないことも。 「人のことより自分の心配したほうがいいんじゃない?」  言いながら、ユキムラがズボンのポケットから小さなカプセルを取り出した。そしてそれを口の中に入れて飲み込む。 (……薬?)  そんなことを思ったのも、つかの間。  ユキムラの足元に転がっているいくつかの石が浮かび上がった、直後。その石たちが一斉に飛んできて、快の体に容赦なく襲いかかる。 「っ……!」  思わずその場に片膝をついた快を見下ろして、ユキムラが言う。 「あんたが知らないならあとは所長だ。ちょっと電話して呼び出してよ」 「……何言って」 「呼び出してもいいし、直接電話で聞いてもいいからさ」  ユキムラの足元で、再び石が浮かび始めている。  断れば容赦しないと暗に脅している。だがそうかといって素直に応じるはずがない。 「お前みたいな危ないやつの言うことなんか聞くわけねえだろ」 「へえ、そう。大人しく聞いといたほうが身のためだと思うけどね」  再び飛んでくる無数の石に、快はとっさに腕で顔を覆ったものの耐え切れず手を地面について何とか体を支える。 「言っとくけど俺は容赦しないよ」  このままではまずい。  快は痛みをこらえて立ち上がると止めてある車へと走り、車体の後ろへ身を隠した。背後から追ってきたらしい石が車に当たってガガガッと大きな音を立てる。  その隙に、快は近くの細い路地へと逃げ込んだ。  ユキムラが追いかけようとしたときには、快の姿は路地の暗闇へと消えていて、ち、と彼は舌打ちをした。

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