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第4話 ③
真っ暗だった。
窓から薄らと入る明かりで見えたのは、綺麗に並べられたたくさんのテーブルとイスだった。
(……ファミレスか)
当然閉店しているファミリーレストランに人の姿はなかった。
ただ、ここに悠利を連れてきた張本人である朋希が、今もなお悠利の腕をしっかりと掴んで離そうとしない。
「離せ、朋希」
強い口調で告げたが、朋希は動じない。
「離したら一人で空間移動して出て行きますよね」
「当然だ」
「でも俺がこうやって掴んでいればできない。悠利さん、人を連れての空間移動は苦手でしたよね」
朋希の指摘に、悠利は無言で返した。
もし彼を連れたままでここから空間移動をしたとしても、そこで体力を消耗してしまっては快を探すこともできない。
「お前こそ。これ以上力を使う体力は残っていないだろう」
「そうですね。でもご心配なく。僕はここであなたを足止めできればそれで十分ですから」
絶対に離さないという意思からか、力を使って消耗しているはずなのに悠利の腕をつかむ朋希の力は強い。
「なぜユキムラと手を組んでいる」
「ユキムラさんを知っているんですか?」
たずねた朋希は返事を聞く前に、ああ、と納得する。
「そっか。あの人も探偵ですし、同業者みたいなものですよね」
そういえばユキムラが言っていた。自分は誠二郎に探偵として雇われているのだと。
「箱を見つけてどうする」
悠利がたずねると、朋希が当然のように言う。
「処分するんですよ。悠利さんのご両親が果たせなかったことを、誠二郎さんが叶えようとしているんです。悠利さんもそうですよね」
確かに、目的は同じだった。
理由も同じだ。
なのに頷くことができないのは、朋希が口にしているだけではない〝何か〟があるような気がして仕方がないからだ。
「大丈夫ですよ。きっとユキムラさんがあの人から箱のありかを聞き出しますから」
あの人、というのが快のことなのは明確だった。
悠利は思いきり腕を振り払ったが、またすぐにつかみ返される。
「駄目ですってば!」
思いきり引っ張られて、駆け出そうとした足はあやうくつまずきそうになった。
「行かないでください」
振り返った悠利を、朋希がすがるように見上げてくる。
「俺だって悠利さんのこと好きだったんですよ。前からずっと」
暗い中でも朋希の真剣な目がはっきりとわかる。
言われなければきっと気づくことはなかった。だが誰に何を言われようと答えは変わらない。
「悪い。俺が好きなのは快だけだ」
その返事を予想していたかのように、朋希が小さく笑う。
「考えてもくれないんですね」
「考えたところで変わることはないからな」
「そんなにはっきりと言われると、これ以上引きとめられなくなるじゃないですか」
痕がつきそうなほどに強く握っていた朋希の手が緩んだ。
悠利は彼から離れて背を向けると同時に、この場から姿を消した。
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