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俺じゃダメなの?(4)
「……んだよ、それ、」
ただでさえ止めることができないのに、田崎のせいでさらに涙が溢れ出る。俺は彼の胸元を、きゅっと掴んだ。制服にシワができてしまうとか、そんなことを考える余裕なんてなくて。無意識のうちに力が入る。
「そしたら俺、ずっと先輩のことしか考えられなくなって。でも俺は後輩だし、男だし、全然頼りがいがないから、無理だって思って、先輩に振られるのが怖くて気持ち言えなかった」
嘘だ、……うそ。
こんなのあり得るはずがない。
「先輩ごめんね? 先輩が泣いてるの、俺嬉しいとか思ってる」
勝手だよねって、そう言って笑ってる田崎の声が、なんだか少しだけ震えているような気がした。
「先輩が好き」
息が止まった。胸が、とても苦しい。都合のいい言葉が聞こえたけれど。
ねぇ、田崎……、それは本当なの?
「……っ、」
なかなか信じられない俺に“本当だよ”とでも言うかのようにまたキスをくれる。
おでこに目蓋に鼻に、それから唇に。
ああ本当に俺のこと……。信じても、いいのかな?
……信じたい。
「先輩、キスがしょっぱいんですけど」
「お前、の、せい……だろっ」
「うん。だからもう泣かないで」
田崎は優しく微笑んで、もう一度俺にキスをした。これまでよりも深いキス。
胸がドキドキして、さっきとは違う苦しさが胸をしめつける。あぁ、田崎が俺を強く抱きしめているけれど、もっとぴったりとくっつきたいなぁ。
俺は、胸元で制服を掴んでいた手を、そっと彼の背中へと回した。
「ふふ、先輩可愛い。大好きだよ」
END
次ページおまけ有り
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