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俺じゃダメなの?(3)
「ごめ……ん、なかった……こと、にして……」
絞り出すような声でそう言って、田崎の胸を押す。
聞かなかったことにして。そして今まで通り変わらない関係で……。なぁ、田崎。頼むよ。
「無理、そんなことできない」
頭上から聞こえてくる声が、言葉が、胸に突き刺さる。
あぁ……。だったらせめて、この気持ちを否定することだけはしないで。
「たざ……、んんっ」
だけど、俺の願いは田崎のキスのせいで言うことが叶わなかった。
……キス、どうして?
「……っ、」
違う、キスじゃない。田崎の気持ちがないからこれはキスなんて心地いいものじゃない。
振られる気持ちを知っている田崎からの同情と慰めだ。
「先輩……ごめん」
「……っ」
ほらやっぱりな。
まともに顔が見れなくて歯を食い縛って俯くと、今度は今までよりもずっと強く抱きしめられた。
「離、せっ……」
お前はどれだけ俺を傷つければ気が済むんだ。
田崎の温もりが、余計に俺を惨めにさせる。
こんなの、いらない。同情とか慰めとか、俺は全然望んでない。
「先輩、ごめん。俺、ずっと逃げてた」
……え?
「本当は明里とは別れる前からうまくいってなかったし、それに振られてから少しして吹っ切れてた」
「……田崎?」
「でも別れてすぐは全然傷ついてなかったわけじゃないから何となく慰めて貰おうとして先輩に抱きついてたけど、顔赤くしたり、離せって言いながらも結局は受けとめてくれるから、なんか可愛いなって思い始めて……」
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