74 / 224
俺じゃダメなの?(2)
「先輩……? 泣いてんの?」
「……っ、な、いて、ない!」
田崎の言葉に慌てて手で顔を隠し、溢れ出る涙を拭く。
ばか、泣くな俺。泣いたって自分が惨めになるだけだろ。今ならまだ誤魔化せる。だから早く、泣くのをやめなきゃ。
だけど田崎は俺の気持ちなんか考えもしないでその手を掴むと、俯いた俺を下から覗き込んだ。
「先輩、どーしたの? 俺が抱きつくの……そんなに嫌だった?」
「違……っ」
そう聞いてきた田崎は泣きそうな顔をしていた。どうしてお前が泣きそうなんだよとそんなことを考えている俺に、田崎はそっと手を伸ばし優しく髪を撫でた。
「先輩……」
弱々しい声が、彼の口から聞こえる。そしてもう片方の手で、俺の涙を拭いてくれた。
「ねぇ、先輩……、」
頼むからそんな顔で俺を見ないで。
頭を触らないでよ、涙を拭かないで。
“元カノなんか忘れて俺にしろよ”
“俺だったらお前以外の奴を好きにならない”
“ずっとお前だけを好きでいるから”
胸にしまってた想いが、
“抱きしめてよもっと”
“代わりじゃ嫌だ”
“俺を見て”
涙と一緒に、こぼれそうになる。
好きだ。
好き、田崎が好きだ……。
こんなにも。
「す、き……」
言葉が、勝手に口から出てきた。
咄嗟に手で口を覆う。
言ってしまったと分かった瞬間、今までとは比べものにもならないくらいの涙が溢れ出た。
「先輩……」
ねぇ、引いた? 気持ち悪いって思った?
知りたくないよ、お前の気持ちなんか。
ともだちにシェアしよう!