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僕のヒーロー(3)
━━━━━……
「夏樹、目ぇ開けて」
いくら目を閉じていたって、音とか聞いてたら何がなされてたかなんて想像できる。
走っていく足音がしたってことは、ヤツらはきっと逃げて行ったんだろう。
時々うめき声が聞こえてきたけれど。
血とか、飛んでないかな……?
考えると少し怖くて、僕はゆっくりと少しだけ目を開けた。
「夏樹」
「……っ」
だけど、すぐに椎名くんに抱きしめられたから、真っ暗になって何も見えなくなった。
「椎名くん……?」
「大丈夫。もう何も怖くねぇから」
とんとんと、優しく背中を叩いてくれる。
「うぁ……、ぁ……」
じわり、と、心に温かなものが広がった。
「好きなだけ泣けばいい」
「ふ、っ、」
涙腺が一気に緩んで、あふれ出た涙が頬を伝ってコンクリートに染みを作っていく。
椎名くんは怖い人なんかじゃない。みんなが言うような悪い人じゃない。
僕をこんなにも温かく包んでくれている。
ぎゅうっと、椎名くんの背中に手を回し、強く抱きつくと「大胆じゃん」って笑って、おでこにキスをくれた。
「俺ね、いつもお前がここでやられてんの見てた。他人なんか興味ねぇって無視してたけど。やられてもやられても学校にちゃんと来て、歯食い縛って耐えてるお前見てたら、強いって力だけじゃねぇなって思えた。お前は俺なんかよりずっと強いよ」
「椎名くん……」
「お前がその強い心失わねぇように、俺がお前を守りてぇって、そう思った」
「……っ」
「夏樹は本当によく頑張ったって思うよ。俺はずっと見てたから、ちゃんと分かってる。……もう、一人じゃねぇ」
“──俺が傍にいる”
椎名くんの言葉に、また涙があふれた。
END
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