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罰ゲーム(1)
「俺、お前のこと好きなんだけど。付き合ってくれない?」
ある日の放課後。
誰もいない図書室で、大好きな先輩に告白された。
教室の窓から、たまたま体育の授業でサッカーをしている先輩の姿を見て以来、ずっと先輩のことが好きだった。
いわゆる一目惚れってやつ。
敵をかわしながらボールを蹴り、ゴールを決める先輩はとても格好良くて。それでいて点が入って笑った時の笑顔は、とても可愛かったんだ。
板書もせずに、先輩をずっと見ていた。
その時、胸がキュンとしたのを覚えている。
体育の授業中にしかほとんど見られないから。移動教室の時に先輩を見かけたりすると、その日一日幸せになった。
そんな大好きな先輩から告白だなんて。
「……はい」
僕のこと、知らないと思ってた。いつも一方的に先輩の姿を探していたから。
返事をする声が震えた。
嬉しくて、ただただ嬉しくて。
僕は夢を見てるみたいに幸せだった。
「悠、帰るよ」
「はい……」
先輩と付き合い始めて二週間。
放課後は先輩が教室まで迎えに来てくれる。
でも、それだけ。
手も繋がないで、一緒にたった十分の距離を歩いて、別れ道になったらすぐにバイバイ。
放課後や休日にデートなんてものもしたことがない。
ねぇ先輩、どうして……?
だんだん離れて行く先輩の背中を見ながら胸がぎゅうっと締め付けられた。
手を繋ぎたい。
抱きしめて欲しいし、「悠」って名前を呼んで欲しい。
それから、おでこをくっつけて、笑い合ってキスもしたい。
先輩にもっともっと触れたい。大好きだから、もっと傍に感じていたい。
そう思うのは僕だけ?
先輩も僕のこと好きなんじゃあないの?
ねぇ。
「先輩……」
小さくなった先輩の背中が涙で見えなくなった。
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