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けんかするほど仲がいい(9)

どうしたらいいのか分かんないって? それはこっちの台詞だよ、ばか達哉。涙が止まらない。初めてだ。人前でこんなに泣いたのは。 「なぁ雅行、泣いてんのはキスが嫌だったからか?」 達哉が、親指の腹で俺の涙を拭く。 ぼんやりとする視界の中で、達哉の顔を見れば、なんだか泣きそうな顔で俺を見ている。 だから何でお前が泣きそうなんだよ。 「違……う、ばか……」 俺の頬に触れる達哉の手に、自分の手を重ねた。大きくて温かい手。 「じゃあお前は、俺が好きってことでいいんだよな?」 もう一度、達哉の唇が俺の唇に触れた。さっきよりも長いキス。思ったよりも柔らかい唇の感触が、今度はちゃんと分かる。 優しい優しいキスだった。 唇が離れた後、俺の目からはさらに涙が溢れ出す。 「……っ」 「頼むから、返事してよ。俺、お前が好きだから。返事もらえないと困る……」 何だよそれ。 お前めちゃくちゃじゃん……。 「ああもう本当頼むよ……。雅行、返事ちょうだいってば」 「う……っ、ひ……く」 「雅行……、」 状況を考えろ。お前が、こんなに泣かしたんだろ。 「雅行って、」 「……う、ぁ、」 俺は、口では何も言えそうにないから、達哉の背に手を回し、ぎゅうっと抱きついた。 俺のほうが好きだ……ばか。 「雅行、今度はちゃんと優しく勉強教えるからさ……」 「……、」 「夏休み、二人で遊ぼうぜ」 「……ん、」 達哉の腕の中で何度も頷く。顔は見えないけど、笑ってるんだろうなって何となくそう感じた。 「雅行、好きだよ」 「……っ、」 「すっげぇ、好き」 言われっぱなしは悔しいから。 俺は少しだけ顔を上げると、達哉の頬に、ほんの一瞬だけれど、唇を押し当てた。 END

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