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けんかするほど仲がいい(8)
「雅行」
目線を逸らした俺に、達哉が優しく名前を呼びかける。何なんだよもう。ばかにしたり、優しくしたり。俺、ついていけない。
「雅行、」
苦しい。
「雅行って、」
「な、んだよ……、」
あまりにもしつこく名前を呼ぶから、涙がこぼれないように我慢しながら顔を上げた。
「……んんっ、」
そうしたら、今までより一番近い距離に達哉の顔があって。……ちょっと、待ってよ。今のは、な……に?
「俺、自惚れていいんだよな?」
また、達哉が真剣な表情を俺に向ける。自惚れって?
「え……」
唇が震える。達哉の指先が、俺の頬を撫でた。
ねぇ、今のは何……? 唇に、何で、キス……。冗談って言ったくせに……?
ばかな俺には、何も分からない。自惚れるって何を? 達哉は、何がしたいの?
「ちょ、雅行? お前……、泣いてんの?」
「……っ」
「ごめん、違った? キス、ダメだった?」
「おま……え、意味、分かんない……っ。怒ってた、から……、俺は……っ、なのに、何で、キス……。じょ、うだんって……」
こうなったら無理、もう止められない。酷いよ達哉。無視されただけでもつらいっていうのに、お前は冗談でキスもするのか。
「雅行、まじごめんて。泣くなよ。俺本当は怒ってねぇし。無視をしたのは、ちょっとお前の反応見ようとしただけで……」
「ひっ、ぅ……」
「キスは、お前が泣きそうな顔で冗談とか言うから……」
“泣きそうな顔をしながら冗談なんて、どう考えても嘘だろ?”
そんなことを言う達哉に、俺は泣くことしかできない。
「うう……っ」
「あーもう! 俺はどうしたらいいの?」
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