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記念日(2)
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昼休み。
隣のクラスにいる恋人の絢斗を呼んで、いつも通り空き教室で二人で食べた。
たいていは窓の外からグラウンドを眺めながら、のんびりと過ごす。
たまに、お互いに知っているクラスメイトのことや教科担の話をしたりするけれど、基本的にはまったり無言で過ごすことが多い。
もうすぐで一年経つからだろうか。
何もしゃべらなくても、その沈黙が苦痛にならなくなった。
「あ、そういやさ、」
お弁当を食べ終わり、教室の隅に座って二人で何となくいちゃいちゃしていると、絢斗が思い出したように口を開いた。
デートの話を切り出そうと考えていたのに、またタイミングを逃してしまった。
どうやって言えばいいのかなぁって、さっきからそればっかり考えていて、何も言えていない。
「加藤がさ、俺ばっか当てんの。すっげぇウザかったわ」
加藤とは数学の先生だ。
授業は分かりやすいけれど、提出物には鬼のように厳しい。
どうやら、課題をしてくるのを忘れたらしく、その授業中はほとんどの問題を絢斗に振ってきた、とのこと。
「うん……」
そんな絢斗の話を、上の空で聞く。
頭の中は、相変わらずデートのことでいっぱいだ。
どのタイミングで……って、さっきから本当にこればっかりじゃん。
でもね、デートに誘うなんてこと、滅多にしないからどうすればいいのか分からないんだよ。
明後日の土曜日の予定、いつ聞こうかな?
予定が入ってたりしないかな?
そわそわしながら話を聞いていると、「ウザいと言えばもう一人」と話を変えられてしまった。
このままじゃ、話をする前に昼休みが終わってしまう。
今度こそ話さなくちゃ。
この話が終わったら、すぐに言うぞ。
僕は頭の中で言いたいことを整理した。
「クラスにいる奴なんだけど」
(土曜日は何か予定ある?)
「彼女と付き合って一年になるらしくて」
(久しぶりにデートとかしない?)
「一年記念日だってうるさいんだよ」
(僕たち付き合って一年になるでしょ?
だから……。)
「いちいち記念日祝う意味が分かんねぇし」
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